第73.5話 ファイラスとライリクス
「今日もお楽しみだったようですねぇ、副長官殿?」
「ヤダなぁ、そんな言い方しないでよ、ライリクス。はい、お土産」
「最近タクトくんの所では、菓子の持ち帰り用も売り始めたのですか?」
「うん、中で食べた人が買うだけで売り切れちゃうけどね。今日のは、蜂蜜の焼き菓子だよ」
「これはありがたくいただいておきますけど、もう少し早く戻ってくださらないと仕事が溜まりますよ?」
「そろそろ長官に怒られそうだから、ちゃんとやるよ」
「……」
「なに?」
「何かありましたか?」
「本当に凄いね、ライリクスの魔眼は」
「最近なんだか精度が上がりまして。喋りたくて堪らない隠し事があると、判るようになりました」
「うわ、やっかい」
「話してください。どうせタクトくんのことでしょ?」
「……紅茶を入れていた」
「え?」
「タクトくんは確実に、紅茶の正しい入れ方や道具がどういうものか知っている」
「なるほど……やっぱりただの臣民ではないのですね、彼」
「多分ね。あんなに旨い紅茶を入れられるなんて、皇宮の侍従でも殆どいないだろうね」
「そんなですか?」
「ああ、しかも『ちゃんとした道具じゃないから味がおかしくないか』と聞いてきたよ……僕のこともお見通しだったら……怖いね」
「あなたが貴族の傍流家系であることを知っていたとすれば、どこかで見かけたことがあった可能性も考えられますね」
「その上、紅茶の茶葉を途轍もなく美しい入れ物に入れ替えていたよ。自作だそうだが……『以前見たものを真似てみた』と言っていたね」
「その入れ物、あの食堂に行けば見られますか?」
「ああ、余分に作った空のものを飾ると言っていたから見られるだろう。驚くよ、きっと。あんな精巧で均整の取れた美しいものは初めて見た。しかも湿気は入らないし劣化もしない付与がされていた」
「保存方法まで知っているとは……常時生活の中にあったということですね……」
「……今度、紅茶を使った菓子も作るそうだよ」
「えっ? 紅茶で、菓子ですか? 甘いんですか、それ?」
「解らないね。想像がつかないよ」
「いつ……?」
「そこまでは決めていないようだったけど……てか、行きたいの?」
「当たり前でしょう! あの食堂の菓子は、どれもこれも絶品なのですよ? 新作なんて、紅茶じゃなくても食べたいに決まっているでしょう!」
「じゃ、溜まってる書類、手伝ってくれたら一緒に連れて行ってあげよう」
「毎日有無を言わせず手伝わせているんですから、今の書類くらいはご自分でなんとかしてください」
「ええぇぇ、ライリクスくぅん、手伝ってよぅ!」
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