第65話 暴発と破壊
……お菓子を持って、門の周りでウロウロとして待っている……なんてのは少女漫画的シチュエーションなのでは? と思ったので、さっさと衛兵隊詰め所の扉を叩く。
「こんにちは! ライリクスさんか、ビィクティアム副長官はいらっしゃいますか?」
「あれ? この間の……タクトくんだっけ? どうしたんだい?」
あ、一緒に水源の所まで行った衛兵さんのひとり、確かファイラスさんだ。
「はい、この間のお礼というか、うちの焼き菓子を差し入れに持ってきたのでお渡ししようと思って」
「えっ、ほんと? 君の所の菓子は美味しいから嬉しいなあ! でも、今、ふたり共いなくてね……」
「あ、じゃあこれ、渡しておいていただければ……」
「いや、折角来てくれたのにそのまま帰すなんて、副長官に怒られちゃうよ。こっちの部屋で待っててくれる? 呼んでくるから」
「忙しそうだし、悪いですよ……」
「へーきへーき、ライリクスなら、絶対にすぐ飛んでくるから! 待ってて!」
……ラッキー。
入れてもらえた。
と言っても、この近くに銃なんて有るわけ無いだろうし。
座って窓の外を眺めていたら、ライリクスさんが走ってくるのが見えた。
「タクトくんっ!」
「はいっ!」
勢いよくドアが開いたと同時にライリクスさんが叫ぶもんだから、つい立ち上がって返事しちゃったよ。
「いいところに来てくれた!」
「はい?」
「この身分証入れ作ったの、君なんだよね?」
ケースペンダントだ。
買ってくれたのか、ライリクスさん。
「はい。お買い上げありがとう…」
「このやたら強すぎるくらい強い【強化魔法】も君だよねっ?」
食い気味で来たな。
やたらってなんだよ。
「はい」
「強化付与して欲しいものがある。君でなければ頼めない」
「何をですか? だいたい、強化くらいなら誰でも……」
「あの武器の威力を知っている君でないと、頼めないんだ」
……!
「どういう事か、説明していただけますか?」
部屋を出て詰め所の奥に入ると、地下に降りる階段があった。
長い廊下の先に扉がふたつ、手前の扉に入るとビィクティアムさんと医師がいた。
「タクト……! ライリクス、おまえ……まだ俺は許可しては……! うっ!」
怪我……?
怪我をしているのか?
「彼の【強化魔法】でしたら防護壁が作れます。そうすれば、暴発しても大丈夫です」
「……暴発したんですか?」
「ああ、先日この町に入ろうとした商人がこの武器……銃、というそうだ。大量に持っていたので押収した」
なるほど。
コデルロ商会だな。
「突き当たりの部屋に置いてある。そこなら爆発しても外に被害が及ばない。先ほど全て破壊すると決定されたので、処理しようとしたら……」
「どうして、俺の強化魔法なら大丈夫だと?」
「数発の弾が発射されてしまい、一発は副長官の肩をかすめ、もう一発が……これに当たったのですよ」
ケースペンダントに?
どんだけ強運なんだよ、ライリクスさん!
「衝撃に、全く無傷の硝子など初めて見ました」
「これ……首から提げていたんですか?」
「ああ、ほら、制服には穴が空いてしまいましたが……命拾いをしたよ」
なんて偶然……よかった、ライリクスさんがこれを着けててくれて。
俺の魔法が役にたって、よかった。
「副長官、ここはお任せください」
「タクトに責任は負わせるな」
「判っています。今からする事は『私がする』のであって、タクトくんではありませんよ」
「……近くで見ている。医師殿、終わり次第すぐに伺うので、上でお待ちいただけるか?」
「ビィクティアムさんは、治療を優先してください! 銃の傷は火傷を伴っていますから……!」
「私が責任者だ」
長官っていないのか?
ビィクティアムさんが、ここのトップなのか?
くそっ!
ソッコーで処理してやる!
改めて俺に頭を下げるライリクスさん。
「タクトくん、強化付与した盾を用意したい。協力してくれ」
「判りました。でも盾でも防げない場合があります……俺のやり方で試していいですか?危険は遙かに少なくなるはずです」
暴発した弾が跳弾になって、盾で防げないこともあるかも知れない。
「……わかった。なにを用意すればいい?」
「硝子……破片でも板でも構いません。なるべく沢山。硝子がなければ、硅砂でもいいです」
多分一番早く、沢山手に入りやすい物だ。
金属より加工もしやすい。
ライリクスさんはすぐに衛兵達に指示を出し、二階の窓硝子を全部外して持ってこさせた。
はは……すごい決断力だ。
硝子部分だけ壊して、山をふたつ作った。
『溶解』で溶かし、『成形』でドーム状にふたつ、重なるサイズで作る。
銃は隣の部屋に置かれている箱の中に入っている。
その箱がすっぽり入るサイズのドームを。
内側は分厚く、青紫のインクで『硬度変更』し、グミのように柔らかく粘りのあるものに。
外側には赤で『硬度百』ダイヤモンドと同じにする。
そして三千度までの耐火・耐熱を付与した。
鉄の融点・沸点の温度より高く設定しておかないと、安心できない。
全体を軽くして、ふたつを重ね合わせて一体化する。
そして被せる前に……
「一度、俺が近寄る必要があります」
「どうしても、君でなければ駄目か?」
「はい」
「僕が盾を持つ。いいね?」
「判りました。それでお願いします」
ライリクスさんを前に、俺は軽くした硝子ドームを運びながら、なるべく振動させないように近づく。
そして上の方に置かれている二、三挺の銃に『
『
すぐには発動しない。
なんとかドームを被せ、重量を元々より重くした。
弾が発射されても、爆発しても動かないように床と合体させる。
「これで、暴発しても爆発しても大丈夫です」
「……凄いですね……こんな短時間で、このようなものが作れる上に、【耐性魔法】まで……」
「こういう作業は、この身分証入れ作りで慣れましたから」
緊張が解け、改めてドーム内の銃を見てぎょっとした。
半数以上の銃の撃鉄が上がっている!
本当に銃を知らない誰かがこうしたのか?
でも、よくよく見ると弾の入っている物といない物があるみたいだ。
では偶然なのか?
「これって押収した時からこの状態でしたか? この……部分が開いていました?」
「ああ、このままだな」
「……よく、今日まで暴発しませんでしたね……」
「これが……開いている方が危ないのですか?」
「俺にこれを向けた冒険者は、暴発直前にこの部品を動かしていました」
ここで
「取りあえずこのままにしておけば、誰も触れられませんし動かせません。暴発も……」
「……! タクトくんっ! すぐに離れたまえっ!」
「え?」
「赤く、変色しているっ! 暴発かも知れない! 早くっ」
「はいっ!」
まだ、平気。
でも溶け出した本体が、起きている撃鉄を支えきれなくなる。
真っ赤に箱が燃え上がり、なかで爆発が起こっているような閃光が走った。
音も、温度も、煙も、何も漏れない。
硝子ドームは完璧に暴発と爆発を押さえ込めた。
そして、銃の本体はどろどろに溶けたはず。
ドームの中に空気がなくなり、火も消えたようだ。
『
もう少しすれば、すっかり冷えて固まりになった鉄が現れるだろう。
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