第64話 銃の行方を追う
「あっ、ごめんっ、ちょっと動かないで! 落とし物拾うから!」
俺は急いで胸ポケットから万年筆を取り出し、グリップの部分に『
「おい、あったか?」
「うん、あったよ。壊れてなかった」
俺は、手に持った万年筆を見せた。
「そうか、よかった。じゃあな」
そう言うとあっという間に、小走りで斜め向かいのテントに入った。
『コデルロ商会』と看板が出ている。
露店を見る振りをしつつ、中を窺うとさっきの男が遅れたことを誰かに詫びていた。
やはり、この店の護衛のようだ。
メモ用紙に“集音”と書いてその男を指差す。
彼等の会話が聞こえてきた。
「……え、ちゃんと渡してきたのか?」
「いえ……渡さなくても……す、え」
うーん、精度がイマイチ?
いや、聞こえてきた。
「なんでまだ持っているんだ! 危ないから衛兵に渡してこいと言ったはずだぞ!」
「これは、私が買ったものですよ! あなたに指図される事では……」
「そんな危険な物を持っているなら、うちでは雇わん! 帰れ!」
「大丈夫ですよっ、爆発なんてしません!」
……どうやら……彼の持っている物で、揉めているみたいだな。
銃のことかな?
それとも別にまだ何かあるのか?
とにかく……銃を手放させた方が良いな。
『
なので【集約魔法】で付与内容を書けば、自動的に付与される。
爆発はまずい。
先ず……本体を熱くて持っていられないくらいに……“本体加熱摂氏五十五度”
「ん……? あっ、熱ッ! うわっ! 熱いっ!」
男は慌ててホルスターごと銃を身体から放したようだ。
次に書いたのは『本体高温溶解』。
「うわぁっ! だから危険だと言ったではないかっ!」
「こっ、こんなこと……こんな事は! なんで……」
「やはりミューラのものは、全て不良品だったのだ! 誰かっ! 誰かすぐに衛兵をよべっ!」
多分、本体は殆ど溶けたはず。
温度が高くなると弾がどうなるか分かんないので、指示した紙を折った。
「うわぁっ! 燃えたっ! 水だっ、水を早く!」
あ、ホルスターが燃えちゃった?
すいません、ちょっと高温になりすぎたかも。
あ、衛兵がふたり、慌てて走ってきたよ。
俺はお暇しようかな。
発砲される前に、壊せてよかった。
「まだ持っていたのですか?隠していたのは、あなたの指示ですか?」
……『まだ』?
という事は、この商人から他にも回収した銃があるって事か。
衛兵隊の詰め所に銃があるんだろうな。
ちゃんと処分してくれれば良いんだけど……
うーん……気になる。
うちに戻り、ランチタイムのお手伝い。
普通に日常生活しようと思っているのに、なんでこんなにトラブルっぽいことに近づこうとしちゃうのだろう……
多分、止めた方がいい。
スルーすべきだって思うんだけど……止めても止めなくても、後悔しそうだ。
ランチタイムの忙しさをこなしながら、頭の中では銃のことが気になって仕方がない。
頭の中で『あれは日常生活には要らないものだ』『あってはならないものだ』と繰り返し聞こえる。
そして『おまえがやるべき事ではない』『手を出せばかえって悪い事態になる』と抑制する声も響く。
手出しなんて、できるとは限らない。
でも、様子見くらいなら……いいんじゃないか?
スイーツタイムの始まる頃、慌てて部屋に戻り、以前母さんと一緒に作った焼き菓子を魔法で出す。
二口くらいで食べられる、小さめのガレットを沢山出して箱に入れる。
衛兵隊に差し入れの名目で近づこう。
「母さん、俺ちょっと、ビィクティアムさんの所に行ってくるね!」
「ええ?」
「この間のお礼に行ってくる!」
俺は母さんの返答を待たずに、東門に向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます