第66話 後始末
「まさか、全く音すら聞こえないとは……」
医師の【回復魔法】で、少しばかり怪我の状態が良くなったビィクティアムさんが呟く。
「中は全部、溶けてしまったようですね。もう、この覆いを外して平気でしょうか?」
「あ、動かせないと思います。床とくっつけてるので……今剝がしますね」
ふたりが驚いたような顔を見せる。
ん?
だって床とくっつけておかないと、いくら重くしてもずれることがあるかもしれないでしょ?
「それで……近づく必要があると言ったのか」
「確かに一体化すれば、確実ではありますが……ここの床は木ですよ? 違う材質の物を……よくもまぁ……」
違う材質の物って……くっつけられないの?
ええー……フツーにやってたけど、フツーじゃなかった?
「【加工魔法】が使えるので、結構やっていましたけど……あんまりやらないんですか? 他の人は……」
「できる者など知らんな」
「僕も知りませんねぇ……タクトくんは魔力量が多いから、ゴリ押しでできちゃうんですかね」
そっかー、そういう一般常識、もっと早く知りたかったなー!
もう遅い。
できちゃうことは、ご披露してしまった。
ならば魔力量の多さで、力ずくということにしておいていただこう!
「あっ、はい、外れましたよ。これどうします? 今回は加工しやすいから硝子で作りましたけど、本当なら金属でちゃんとしたの、作った方がいいと思いますから……」
「そうだな……しかし、壊せないだろう? これ……」
「僕では無理です。タクトくん、壊せる?」
「はい、勿論。自分の作った物ですからね。でもこれ、二階の窓硝子ですよね? 元に戻しましょうか?」
ああっ!
また変な顔してるっ!
戻せないの?
戻せるでしょ?
ドームの加工より、よっぽど簡単でしょ!
「……頼めると……助かりますね。いいですか? 副長官」
「ああ、正式な仕事として頼む。魔法師組合に依頼書も出しておくから、明日にでも確認してくれ」
「はい、了解です。じゃあ、みなさんに窓枠持ってきてもらってください」
そして窓枠が運び込まれ、俺はサクサクと硝子板を成形して、衛兵さん達にガン見された。
できる子なんですよ、俺って意外と。
「あ、そうだ。ついでにこれ、強化硝子にしちゃいますか? 矢とか石とか防げた方がいいでしょ?」
「ついで……にやるものなのか? 強化ってのは……」
「タクトくんにとっては、その程度の『作業』なんですねぇ……お願いできると嬉しいです」
「かしこまりましたー」
「君は本当に、かるーく魔法を使うねぇ……相当な負担だと思うのだが」
「鍛えてますからね、ふっふっふっ」
翌日、魔法師組合に行くと衛兵隊からの指名依頼が入っていた。
昨日の件と、一階部分の窓硝子への強化付与も追加記載されていたので、詰め所にやってきた。
「タクトくんっ!」
またしてもライリクスさんがドアを勢いよく開けて、一階廊下にいた俺に走り寄ってきた。
「……なんですか?」
「昨日の焼き菓子! 君の店で出してるものなんだろ? 持ち帰りはできないのかいっ?」
「承っておりません」
「なんでだよーっ! お菓子の時間は僕、間に合わないんだよっ!」
「それは……残念ですね?」
ライリクスさんは甘党のようだ。
スイーツ男子部にようこそ。
「今度また、差し入れしてあげますよ」
「本当かい? 絶対だよっ! ゼッタイ! いつ? 今度は、いつ来る?」
「……『魔力の状態』って奴を教えてくれたら、早まるかも知れませんねぇ?」
「魔力は常に安定しているわけではなく精神状態に左右される所が大きい。負の感情や行動では特に揺らぎが大きくなり、意図せず魔力を使って平静を保とうとするから平時と比べて濃い色が見える……僕にはね」
即答かよ。
スイーツの魅力、恐るべし。
「魔力が色として見えているって事ですか?」
「僕の魔眼は、そういう種類だということだ」
「魔力を見分けることは、魔眼でしかできないんですか?」
あ、渋い顔になった。
「質問が多いな……」
「焼き菓子を二種類にしましょう」
「うん、多分、魔眼でしかできない」
本当にこの人これで良いのか?
審問官が、こんなに簡単で良いのかよっ!
「じゃあ……看破の魔法や技能があっても見られないということか。魔眼って生まれつきなんですよね?」
「僕の魔眼は、生まれつきじゃないよ?」
「えっ?」
後天的に魔眼になるって事もあるのか。
「成人の儀で目覚める能力や才能もあるからね。僕はその時に魔眼になった」
「魔力の種類……って、赤魔法とか青魔法とかも、判るんですか?」
「……」
「明日持ってきますよ?」
「判るね。だいたいだけど、どういう種類の魔力が揺らいでいるかは区別できる」
うっわー……今回、赤属性と白属性しか使ってなくてよかったー。
「不思議なんだよねぇ……君の魔力は。子供のくせにやたら安定している。あんなに均等に付与が入るのも、何十年も研鑽を積んだ魔法師のようだよ」
「【文字魔法】が、そういう種類の魔法なんだと思いますよ?」
見た目より十年ほど、長く生きてるせいな気もするけどね。
「独自魔法は確かに型にはまらないけど……ある一点が飛び抜けているいびつな魔力が多いから、解り易いものが多いんだけどねぇ」
「独自魔法って……持っている人は多いんですか?」
「少なくはないね」
「そっか……みんなも持ってるのか」
まぁ……個性みたいなものなのかも知れないなぁ。
「そういうのを
「……」
「三種類にしましょう」
「あるよ。皇宮司書館に行けば、見ることはできる」
あるのか!
見たい!
「でも君のものは載っていない気がするけどね。君の使う『文字』は全く未知のものだから」
うーん……そうか……そうかもなぁ。
でも、もしかしたら過去にも、こっちに来た前の世界の人がいるかも知れない。
そうしたら、少しは似ている魔法や技能があるんじゃないかな?
機会があったらその司書館で見てみたいけど……王都に行く気はしないしなー。
すっと俺の側から離れ、ライリクスさんが笑顔で手を振る。
「じゃ、明日楽しみにしてるねぇー」
「は? ああ、はいはい」
うん、ちゃんと作ってきてあげよう。
色々魔眼のこととか面白かったし。
何か聞きたいことができたら、たっくさんスイーツ持ってまた来よう。
ホント、いい情報はただではないからね。
翌日、焼き菓子三種の詰め合わせをライリクスさんに届けたら、涙を流して喜んでくれた。
……そんなに食べたかったのか。
こういう人のために、夕方だけ限定で焼き菓子のテイクアウト、売ってもいいかもしれない。
そして、試食に一個だけ、新作のココアマカロン
ライリクスさんの瞳がめっちゃキラキラしていたので、近いうちにねだられるだろう。
聞きたいこと、纏めておこうっと。
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