第61.5話 ライリクスと商会長
「止まってください。積み荷と手荷物の検査を行っております」
「なんだって? 私は毎月、こちらで取引しているのですよ? 今更なんの……」
「実は先日、我が町に大変危険な物品がいくつか入りましてね。もし同じ物をお持ちの場合は、お入りいただくわけにいかないのですよ」
「危険な……とは、どのような?」
「このような形の物でしてね、触っていただけで爆発してしまったのです」
「え……? こ、これは……」
「おや、ご存知ですか?」
「先日ミューラの商人から買い付けた物に似ておりますが……」
「そうです! 爆発したふたつも、ミューラ製でした。今お持ちなのですか? 確認いたしますが、よろしいですね?」
「あっ、まっ、待ってください、あああっ」
「……これはこれは、こんなに沢山。んー、三十くらいありますねぇ……? 売るつもりで?」
「ええ……まぁ、頼まれ物でして……」
「ほう、どなたの?」
「それは……その」
「これは、なんという名前なのです?」
「ミューラの商人は『銃』と言っていました」
「なるほど……銃……をどこで売ろうと?」
「西・緑通り七番の……あっ、いっ、いえ……」
「これを持っている者を、通すわけにはいかない。直ちに引き返していただこう。今後も、町への進入許可・販売許可については、見直しすることになります」
「それは困ります! この町の金属器や鉱石を、仕入れないと……!」
「これは我が町の決定事項です。こんな危険物を取り扱ったり、売ったりする者を入れることはできません。既に、犠牲者が出てしまっていますから」
「爆発……の……ですか? 使用されたのでは、なく?」
「ええ、使用前に爆発しました。一件はそこに書いて有るとおり、もう一件は飾ってあっただけで粉々になり、一部は高温で溶けておりましたよ」
「そ、そんなバカな……使った者もいるが、今までそんな話は……」
「使ったのですか? あなたが?」
「いえ、うちの護衛に持たせて……」
「護衛の方がお持ちですと、その方々も入れません。やはり、このまま引き返していただいた方が良いでしょう」
「こ、これは、こちらでの取引が終わったら持ち帰りますので、衛兵隊の方でお預かりいただくわけには……」
「いたしかねます。危険だと判っているものを、預かることはできません。こちらで全て破壊・処分していいのでしたら別ですが」
「そんなぁ……仕入れ金額もかなり……」
「……あなた、もしかして騙されたのでは?」
「え?」
「その羊皮紙に書かれている被害者は、一度使って何ともなかったから平気だと思った……と言っていました。もしかしたら、二度は使えない不良品なのではないですか?」
「そんなバカなっ……いや、でも二回使った物は……そう言えば、ないが……」
「事故を起こす不良品をあなたが売り歩いていると判れば、あなたの信用と店に大きな傷が付きますね……」
「まさか……ミューラのやつが? 私を陥れようと……?」
「あり得ますよ。あなたが売ったのは不良品で、自分はちゃんとした物を売ると後から売り込めば、あなたを追い落として販路を全部かっさらえますからねぇ……」
「あいつなら、やりそうだ……」
「あまり信用ならない人物なのですか? もしよろしければ、似顔絵などお願いできれば。そうですねぇ……町でこれを売ることは許可できませんが、衛兵隊で全て引き取る際に、少しくらいでしたらお支払いいたしましょう。協力費として」
「う……む」
「無理にとは言いません。どうせそのミューラの商人は、他の方々にも同じ手を使っている可能性が高いですから。このまま、お引き取りくださってもいいですよ。持ち歩いている間に……爆発しないといいですね?」
「くそっ! おい、護衛の者達を全員集めろ!」
「回収してよろしいですか?」
「ええっ! お願いします! 似顔絵も協力します! その他に、やつが持ってきたものも一緒に渡していいのでしたら!」
「他にも……不良品が?」
「怪しげな薬を届けて欲しいと、預かったのですよ。しかし……何にどう効果があるかも詳しく聞いておりません」
「誰かに委託するように頼まれましたか?」
「教会のボゥルエン神官です。渡せば、その場で支払いがされるからと」
「わかりました。その神官殿でしたら、よーく存じておりますので確認いたしましょう。もし問題ないようでしたら、お金を衛兵隊で預かりますので、あなたがご出発の時にお渡しいたします」
「……問題、ありそうですな」
「それはこちらで調べます。ああ……集まったようですね。全部で三十四……ですね。他に持っていないですね?」
「本当に……爆発したのですよね?」
「ええ、あなたはタセリーム商会をご存知で?」
「今日はその店主とも、会う約束をしております」
「では、聞いてみるといいでしょう。二度目の爆発は、その店で起こったのですから」
「タ……タセリームくんに怪我は……?」
「幸いにも手に持っていなかったので、怪我はありませんでしたよ。かなり怖ろしい思いをされたようですが」
「なんてことだ……彼が……」
「では、銃とこの薬、こちらで処理いたしますね。どうぞお通りください」
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