第53話 『診る』?『視る』…?

「悪いが、もう暫くここにいてもらうぞ」

「まだ、俺に聞きたいことでも?」

 もう話せることはないし、そろそろお腹空いたから帰りたいんだけど。


「おそらく、さっきのあの袋の中身は毒物だろう」

「はい……俺もそう思います」

「あの袋に触っただろ? まぁ、大丈夫だとは思うが、おまえも俺も念のため毒に侵されていないか診てもらうから」

 それもそうか。

 身体に付着していないともかぎら……ん?


 診て……もらう?

 それは診察的なもの?

 鑑定的なもの?

 どっちにしても、身分証提示が不可欠なのではっ?


 やばい……最近チェックしてない。

 いくら独自魔法が表示されないとはいえ、増えてたり変化してたりしたら言い訳できないものもあるかも知れない。


 青属性が出てたら、更にヤバイ。

 俺は『水魔法を失敗した』ことになってるのに、適性あったら不審だろ?


「あ、あの、じゃあその前に用を足してきてもいいですか? 実はさっきからずっと我慢してて……」

「ああ、そうか、すまんな。すぐ連れてきてしまったからな。右に行くとすぐだ」


「はいっ、ありがとうございます!」

「他の者に接触しないように、気をつけてくれ」

「はいっ!」

 よしっ、個室に入ってすぐにチェックだ!


 トイレは個室が四つほど並んでいる。

 一番奥なら、隣だけを警戒すればいい。


 先ずは表示偽装を書いてしまおう。

『赤属性の魔法・技能以外では【付与魔法】と【文字魔法】のみ表示』

 これを先にコレクションに入れる。


 身分証、拡大。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前 タクト/文字魔法師カリグラファー 

 年齢 21 男


 在籍 シュリィイーレ 


 養父 ガイハック/鍛冶師  

 養母 ミアレッラ/店主


 魔力 2450


 【魔法師 二等位】

 文字魔法 付与魔法 加工魔法 


 【適性技能】 

 鍛冶技能 石鑑定 金属判別

 石工技能

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……微妙に増えてるな。

【加工魔法】ってなんだろう?

 あとでラドーレクさんに聞こう。

『石工技能』はちょっと嬉しいぞ。

 よし、これくらいなら問題無さそうだ。


 さて、トイレも済ませておこう。

 したかったのも事実だしね。



 部屋に戻ると、医師っぽくも鑑定士っぽくもない人が増えていた。

 にこにこしてひょろっとした、細めのお兄さんだ。

 飄々としている……ってこういう感じなのかも。

 衛兵隊の制服が、似合っていない気がする。


「こんにちは。タクトくんだね? 僕のこと、覚えてる?」

「いえ……どこかでお会いしましたっけ……?」

 知らない。絶対に知らないぞ。


「何度か食堂に行ってるんだけど……そうかぁー」

「俺、人の顔覚えるの苦手で……すいません」

「いやいや、僕もあんまり存在感がないから仕方ないよ」

 お客さんだったのか……全然覚えてなかったよ。


「彼は衛兵隊衛生兵のライリクスだ。医療魔法の使い手だ」

「よろしくね? でも、君はもう確認済だよね?」

「え?」

「さっき、身分証……開いてたでしょ?」

 なんでバレてるんだ?

 まさか、見ていた?


「身分証を開くとね、魔力が一時的に大きくなるんだよね。この建物の中では魔力が動くと解っちゃうんだよ」

 そういう建物とかっ、反則だろっ!

 これも【付与魔法】か?

 建物全体に、そういう効果を付与しているのか?


「そんなに不安だったのかなぁ? 変な表示が出てるのが」

 この人、どこまで『視える』人なんだろう?


「でもほっとした顔で出てきたから、出てなかったんでしょ? 状態異常は」

「はい……」

 中身を読めている訳じゃないのか?

 いや、警戒は最大限にしておいた方がいい。


「そんなに怯えさせてしまったか……悪かったな、タクト」

「いえ、ビィクティアムさん、大丈夫です」

「でもしっかりしているねぇ。いくら副長の前だからって、身分証出したりしないのは良いことだよ」


「……なんとなく……身分証見せるって、恥ずかしくないですか? こう……裸を見られるみたいな感じで」

「はははっ、恥ずかしい……かぁ! 面白いねぇ、タクトくん」

「で、どうなんだ、ライリクス?」

「大丈夫です。タクトくんも副長も全然、毒の反応はありません」


 思わず溜息が出た。

 よかった。

 身体に付着もしていないみたいで、

 まあ大丈夫だとは思ったけど、人に言われると安心する。


「あの毒、致死性のものじゃありませんでしたから、そこまで深刻じゃなかったんですけどね」

「え? 致死性じゃない……? 俺、てっきり町の人を殺すためかと……」

「それは、全く意味がないだろ」

 ですよね。

 俺も意味が判らなかったんで……じゃあ、なんのための毒だ?

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