第43話 試作品販売

 ケースペンダントの試作品を数えたら、三十五個もあった。

 ……凄く作ったもんだな。

 特に父さんのは、色とかデザインを随分変えたし。

 母さんのタイプも花の形が違うものとか、表面の形状が違うものとか。


 うーん……壊して素材に戻すのもいいんだけど……

 あとちょっとで、完成品になるんだよな。


 そのことを父さんと母さんに話したら、売ってみたら? と言われた。

 食堂の一角に置いてもいいと。

 それじゃあ、仕上げようかなぁ。


 勿論、持主に付く耐性とかセキュリティの魔法の付与はしない。

 表面に、強化した硝子を使うくらいはするけどね。

 魔法付与をした物を売るには、魔法師組合の許可がいるからだ。


 そーだ、折角だしナンバリングしておこうかな。

 限定モデルっぽくて、イイ感じじゃないか?

 なんてな。


 売れなくてもいいし、売れたらラッキーってくらいだ。

 壁の一角だけでも、なんかキラキラして雰囲気変わるかも。


 あ、ちょっと前に試しで作った燈火のミニチュアも置いてみよう。

 電池になる物を入れていないから燈火としては使えないけど、インテリア的に。

 価格は……両方とも材料費と、手間賃ちょっとくらいでいいか。




 なんと、即日完売であった。

 燈火のミニチュアまで、全部売れた。

 スイーツタイムの女子達が見つけるなり、購入していったそうだ。

 そっか、みんなあのケースだと表に出したくないって思っていたんだな。


 それとも、価格設定が安かったからかな。

 まぁ、試作品だし、クオリティもそこそこだから高額設定できないよ。

 プチプラアクセってのは使いやすいらしいしね。

 カルチャースクールのおばさま達の話に、よく出てきていたよ。

 娘さんが安いアクセサリーをいっぱい持ってるって。


 売上げは全部、母さんが俺にくれた。

「タクトが作った物が認められたんだからね」

 そう言ってくれて。


 これでまた素材を買って、ふたりになんか作ろう。

 何にするか考えとかなくちゃ。



 そうだ、俺自分のケースペンダントも作っとこうっと。

 強化とセキュリティ魔法の付与だけでいいからすぐできるし。

 デザインは……スチームパンクに桜を合わせたものとかにしようかな。

 ちょっと、痛いか?

 ははは。



 さて、ものづくりはこれくらいにして【文字魔法】の可能性の模索をしよう。

 転写が使えるようになって、格段に利便性が増した空中文字。


 まだ俺はこちらの言葉での付与はしたことがない。

 紙に書いた時も含めて、どんな違いが出るのだろう。


「まずは……物品を出せるかどうか」

 こちらで、俺が触れたことのある物はまだ少ない。

 あちらほど、ありとあらゆる物がある訳じゃないからだ。


 食べ物……素材とかなら、違いがわかりやすいかも。

 紙にこちらの文字で『アルーケパ』と書く。

 玉ねぎのことだ。


 いつも母さんが使う、小振りで少し細めの玉ねぎが現れた。

 その国の言葉で書くと、その国のものが出るのはこちらの言葉でも同じらしい。


 空中文字でも、この原理は変わらなかった。

 石に『水晶』と付与すると、日本で見た水晶の固まりに変わる。

 こちらの文字で水晶の『ツァイト』と付与すれば、この間採取した物になった。


 やっぱり、見たり触ったりした物にしかならない。

 しかも、その言葉を使う場所での経験に基づくようだ。


 変化させた物は……鑑定したらどう見えるのだろう?

 石鑑定でツァイトにしたものを見る。

「……ちゃんと水晶に見えるな。でも……」


 付与した文字が光って見える。

 こちらの言葉で付与するなら、鑑定されたら読まれる事前提だな。


 実は空中文字は読ませないように、目くらましを掛けられることが判った。

 付与する言葉を書いたあとに『(透)』と書くと文字が見えなくなる。

 だが、効果が消えたわけではない。


 しかし『鑑定』は誤魔化せないということだ。

 ならば知られたくない内容の付与は、あちらの言葉にすべきだな。


 漢字、英字、アラビア文字など混ぜれば余計に解らないだろう。

 書体で判別させにくくすることもできる。


 読ませるための文字を、読ませないために使うって変な感じ……

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