第42話 誕生日プレゼント

 母さんの誕生日。

 できあがったケースを、あげたらもの凄く喜んでくれた。

 すぐに入れ替えて、首から提げてくれた。


 う、父さんにちょっとジト目で見られた。

「父さんのもちゃんと作ってるよ。誕生日までには間に合うから待ってて」

「なんだ、そうならそうと言えよ」

 簡単だなぁ、父さん……


「綺麗だねぇ……タクトがこんな物、作れるなんて……」

「結構たくさん試作品、作ったからね。一番綺麗にできたのがそれなんだ」

「……これ、魔法が付与されてるのか?」

「うん、いろいろね」

「いろいろ……?」

 ふふふふ、一部抜粋で説明しちゃおうかな。


「全体を強化してる。汚れと熱にも強い。滅多な事じゃ壊れないよ」

 母さん自身に耐性がつくとかは……黙っとこう。

 やり過ぎって言われそうだから。


「それと、鎖が切れても落とさないようになってる」

「どう……やって?」

「まず、身分証が入ってる状態で、石の方に母さんの魔力を流してみて」

 これで“持主指定”が発動する。


「このケースは、母さんの専用になった。もう他の人には使えない。ちょっと貸して?」

 俺はケース本体から鎖を抜いて、テーブルの上の置いた


 ひゅっ


 ケースが自動的に、母さんの胸元に張り付いた。

「な、なんだ? 何が起きた?」

「急に張り付いてきたよ? あれ、取れないね」

「もう一度母さんが魔力を流せば、母さんにだけは取ることができるよ。でも他の人は取れない」


 鎖からはずれたら、持主の身体に張り付く。

 そして、取るにも持主の魔力が必要になるように設定した魔法だ。


「役所なんかで渡す時は取り出すから他の人にも身分証は持てるけど、取り出せるのも母さんだけ」

 魔力は人によって波動だかが違い、個人が特定できる物だ。

 なのでそれを利用したセキュリティ魔法を作ったのだ。


「すげぇ……こりゃあ、スゲェ魔法だな」

「そうだね……初めて見たよ。タクト、ありがとうねぇ!」

「万が一の時も、無くさないで済むよ」

 会心のできですよ、今回のケースペンダントは。


「硝子と……水晶か? こんなに細かい物を組み合わせて……よく作ったもんだ」

「本当だねぇ……ほら、灯りに当てるとキラキラして、宝石みたいじゃないか」

 ピンク色の水晶は、ローズクオーツの欠片。

 台座の覆環留めでも、光が反射するからね。


「昼間はもっと綺麗だよ。表に出してても」

「そうだね! 身分証入れって不格好で隠していたけど、これは見せびらかしたいねぇ」


 やっぱり、アクセサリーは好きなんだな。

 あまりしないから、ちょっとだけ不安だったんだよ。


「似合ってるぜ、ミアレッラ」

「そ、そうかい? こんな宝石みたいなの、初めてよ」

「凄く似合ってるよ、母さんに」


 こんなに喜んでくれて嬉しい。

 実はまだサプライズがあるんだけど、父さんの誕生日まで黙っとこう。

 ちょっと照れくさいしね。



 十日後の父さんの誕生日。

 今か今かとソワソワしてる様子だったから、朝食のあとすぐに渡した。

 

 母さんは桜の花にしたけど、父さんは仕事道具のデザインにしようとしたんだ。

 でも、なんだかどっかの秘密結社のマークみたいになっちゃって却下。


 それでも、金槌とかのデザインを入れたかったんだよね。

 で、歯車模様も入れたら、スチームパンクみたいになってしまった。


 でも、見た目格好いいからいいやと思ってそれで決定。

 鉱石の中にルチルクオーツの欠片も沢山あったので、金色っぽい物を選んで使った。


 ベースの硝子は母さんと一緒だけど、黒曜石を使って引き締める感じに。

 ……と言っても、やっぱりもの凄く中二病的なデザインだ。


 父さんはめちゃくちゃ喜んでくれた。

 どうやら凄く気に入ってくれたようだ。

 よかった……


 では、最後の種明かしをしよう。


「ねぇ、父さんも母さんも、半分だけ身分証をずらして、陽に透かして見て」

「ん?陽に?」

「こう……かねぇ。あ、あら……」

「こりゃあ……」


 台座のチタンの一部を、薄く削るように文字を入れ込んだんだ。

 勿論、こちらの文字で。

 内側が凹んでるから、外からじゃ解らないようになってる。


『愛する母に心からの感謝を』『愛する父に心からの感謝を』と。


 あれ?

 ふたりとも……固まってる……?

 え?

 ちょっと恥ずかしすぎたか?

 引いてないよね?



 無言で泣いてるふたりにガシガシ抱きしめられ、頭をなでられた。

 そっか、感激してくれていたのか。


 でも、ちょっと力を抑えて……手を弛めて欲しい、かな。

 く、くるしい……

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