第41話 贈り物を作ろう

 ずっと、母さんと父さんの誕生日に何をあげようか迷っていた。

「ペンダントとかにしたかったんだけど……」


 身分証も首からかけてるから、ペンダントはあまりよろしくない。

 ふたつも下げているのは肩も凝るだろうし、ぶつかったり、仕事中に邪魔だ。


 なので、その身分証のケースを作る事にした。

 中に入れたプレートの名前が記載されている方が見えてればいいんだし。

 今のケースも、両面見える訳じゃないしね。


 丈夫さ優先の金属製のケースは男の浪漫心をくすぐるが、女性には無骨すぎる。

 まぁ、そういうのを身につける女性ってのも、服装によっては格好いいんだが。

 こちらの世界の日常的な服には、ちょっと合わない気がするんだよ。


 やっぱ、可愛いのとか綺麗なのがいいと思うんだ。

 カルチャースクールにはアクセサリー作りもあったから、やった事有るんだよね。

 父さんのもカッコイイ感じで仕上げれば、使ってくれると思うんだ。


「先ず……土台は、チタンかな?」

 実は錆山麓近くで採れる物の中に、チタン鉄鉱が含まれる岩石がかなりあった。

 チタンならアレルギーも起こしにくいし、良いとおもう。


 錆山には他にもレアメタルが多くありそうだが、ボーキサイトのように粉塵が危険な鉱物もある。

 長い間、その粉塵を含んだ空気を吸っていると肺の病を患うらしい。

 まだ錆山には入れないが、行く時は気をつけなくちゃな。


 魔法で組成分解し、チタンを取り出す。

 魔法ってホント便利。


 今持ってるケースの形を参考にしながら、スライド式のケースを作った。

 その裏側に装飾をしていく。

 いわゆる『デコる』ってやつだ。


 今ある物にデコってもいいかと思ったんだけど、一から作りたいし。

 土台にもちょっと工夫をしたい。



 飾りの石は素材を魔法一発で形を整えるより、小さい欠片を使って形を作っていく。

 ベースにする硝子に、青めの石英を混ぜる。

 均一ではなく角度によっては青から紫っぽく見える様に。


 石英、水晶などから、ピンク色のものと青っぽいものを選り分ける。

 桜の花の形にくぼみを作った、その硝子の中に詰め込む。

 こうすると光の当たる角度でキラキラすると思うんだ。



 デザインや素材も何度も変えたりして、何個も試作品を作った。

 そして、ようやく納得できる物になった。


 最終的な組上げの前に、魔法を付与する。

「えっと、物理無効と毒無効、浄化は当然として……」


 あちらの世界の俺の両親は、事故であっという間に命を奪われた。

 不慮の事故は、防ぎようがない。


 だから、怪我をしない、しにくいように。

 そのための魔法は、家族には必ず身につけていて欲しい。


「ルドラムさんの時みたいに、身体から離れないようにしなきゃ」

 チェーンを切れないようにする事も考えた。

 でも、もし何かに引っかかって、首が絞まってしまった時には切れない方が危ない。


 たとえ切れても、絶対に身体から離れないようにしないと。

 身分証をなくさないためにも。


 作った石は台に覆輪ふくりんめにするから、その裏側に文字を書きたいんだ。

 小さい物に書ける文字数は限られている。

 だが、実は空中文字にはとても便利な機能があったのだ。

「細長い紙……あ、紙テープがあったな」



 幅一センチ程度の紙テープに、空中文字で書いていく。

 そのテープを文字が内側になるようにして輪っかにする。

「で、縮小……っと」

 輪の内側にぴったりと嵌るサイズに縮めてはめ込む。

 別のテープに空中文字で『外側へ転写』と書いて輪にし、その入れ込んだ紙に触れさせる。

 これで台の覆輪内側に【文字魔法】が転写されるのだ。


「ふっふっふっ、成功だな」

 本当は縮小などせずに書いたものをそのまま付与したいところだ。

 しかし、あまりに小さすぎたり、そもそも書く事が困難な場所では仕方ない。


 飾り石に『耐熱耐火』『防汚』『破壊不能』『持主指定』も付与してある。

 そして、チェーンを通すバチ環の裏に特別な魔法を。



 過保護なくらい守護系魔法のオンパレードだぜ。

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