第28話 ちょっとフィクションを交えつつ説明しよう

 あとで……が、翌日とかだったら良かったのに。

 ほぼ、『今すぐ』ですよ、これは。

 まぁ一度部屋に戻っておかしな表示がないか、身分証を確認できただけでも良かったけど。

 魔力の表示数が『3072』に増えていた以外は大丈夫だった。


 で、今は二階の居間に集まっている。

 何故か、衛兵隊の副長官という人と、ラドーレクさんまで増えてるけど。


「なんで、ビィクティアム副長官まで来てるんですか?」

「衛兵隊としてもあの魔法については、聞いておかないといけませんからね。不都合でも? 組合長」

 見られていたのか……あとから来たから、見ていないと思っていたのに。


「そういうわけではないですが、子供相手に念の入った事だと思ってね」

「子供だから……ですよ」

 もー、ふたり共、子供、子供って連呼しないでよ。


「確かに、あれは相当の威力でしたからね。衛兵隊としても見過ごせないでしょう」

「で、タクト。ちゃんと話せるな?」

「はい……」


 先ずは、説明させていただきますか。

「えーと、あの火の攻撃魔法は、正確には俺が出したわけじゃありません」

「どういう……」

「まぁ待て、ビィクティアム。先にタクトの話を聞いてくれんか」

「……承知しました」

 ガイハックさん、ありがとうございます。

 途中で突っ込まれると面倒なんで、助かります。


「これを見て下さい。これは俺の故郷のものです」

「……見た事のない物だな。布……でもないし」

「『和紙』というものです。これに書かれた文字が魔法そのものです」

 短冊に書かれた文字は、護符を真似て書いたものだ。


 墨と筆を使って、草書体と隷書体を混ぜて書いてある。

 文字の周りにはファイヤーパターンまで描いちゃった、中二病的傑作ですよ。


「これには炎の魔力が込められていて、持っている者が形を指定して指をさすとその方向に魔法が飛びます」

「持っているだけで……あんな強い魔法が?」

「君が書いたのかい?」

 これは肯定しちゃ駄目な奴。


「えっと……俺が書ける、魔法が発動できる文字は……この万年筆で書いたものなんです」

 小さめの付箋紙を取り出して、前にガイハックさんに見せたように文字を書く。

【水】を出し、文字を滲ませてすぐに使えなくする。

 前にラドーレクさんに見せたデモンストレーションだ。


「……これだけ?」

「はい。俺自身が文字を書いた時のものは、こんな程度なんです」

「しかも、タクトが書いた奴は効果にばらつきがあってよ。その上、そのちっこい欠片にしか書けねぇ」

 ナイスフォロー!

 ガイハックさん!


「では、何故このワシ? というものを持っていた?」

「……故郷の、亡くなった祖父にもらったものなんです」

 これは本当。

 じいちゃんが残してくれた紙類の中にあった和紙の束を貰ったんだ。


「どうしてこの文字には、あんな大きな魔法が込められているんだ?」

「これは【護符】と呼ばれるもので、守り札として家族から貰ったりするんですよ」

「随分、物騒なものをくれるのだな」


「あんなに強いとは思わなくて、俺も驚きました。でも、多分これ、もう使えないと思います」

「本当かい?」

 心配そうなラドーレクさんに頷いてみせる。


「ああ……この周りの模様が、薄くなっとるからか?」

「薄くなってると使えないとは、どういう事なのです、ガイハックさん?」

「タクトの魔法、【文字魔法】は色がなくなっちまうともう使えねぇんだよ」

 そうなんですよ、リシュリューさん。


「魔力が抜けてしまうと、色が消えるという事ですか?」

「それは私も、タクトくんとガイハックに見せてもらったから確認済だよ」

 実はこれ、周りのファイヤーパターンは薄墨で書いてるから元々なんだけど。


「実際にやって見せてくれ。完全に使えないと証明できなければ、相応の措置が必要だ」

 さすが、衛兵隊の副長官さん。

 攻撃魔法関係には、うるさいね。

「わかりました。ではさっきと同じようにやってみますね」

 俺は札を縦に窓の外、空を指さして唱えた。


「槍」

 もちろん、槍は出ない。

「散弾」

 こちらも、うんともすんとも言わない。

「ほれみろ。だから言っとるだろうが」

 ガイハックさん、ちょっと疑ってたな。

 ほっとした顔してる。


「俺にも試させてもらいたい。構わないか?」

 念には念を入れるタイプだね、ビィクティアムさんは。

「どうぞ」


 ビィクティアムさんが札を開いたまま手にして俺と同じように唱えるが、何も出ない。

 ……ふぅ、やっぱりだ。

 こんな形で、一か八かの検証になるとは思わなかったけど。


 書かれている文字は日本語。

 俺が『槍』と言ったのは日本語だ。

 翻訳されているから、みんなにはこちらの言葉で槍を意味する単語に聞こえている。


 そして、ビィクティアムさんが唱えたのは、こちらの言葉の『槍』。

 日本語とは全く違う発音で、存在しない名称だから反応しなかったのだ。


「どうやら危険はないようだな。持っているのは、この一枚だけなのか?」

「はい。護符は、沢山持ち歩くものではありませんから」

 うん、これしか作らなかったからね。


「君がこのワシに同じ事を書いたら……使えるのではないのか?」

 うーん、リシュリューさんも疑り深いな。


「じゃあ……この和紙の裏に書いてみましょうか」

「タクト、このマンネンヒツ……だっけか? こいつで書いた事はあるのか?」

「いえ、初めてですね。どうなるのか俺も楽しみです」


 うっかり綺麗に書いて、発動するのはヤバイ。

 でも、万年筆を使って筆で書くように書くと、文字は決して綺麗とは言えない。

 しかも和紙の裏なんて引っかかってインク溜まりや掠れ、飛びもできる。


 結果、種火にもならないような小さな火が一瞬点いたが、何も燃やす事もできずに消えた。

「今の俺の実力と、この筆記具ではこんなものですね」


 ……明らかに、全員が安堵した。

 できない事で安心されるって、こちらでは攻撃的な魔法というのはかなり警戒されるものなんだな。

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