第27話 どうして身体が動いたんだろう

 俺は決して、正義感が強い方ではない。

 警察官とか消防士なんていう、ヒーローに憧れた事もない。

 どっちかというと、面倒事は極力避けたいタイプだ。


 でも、ガンゼールがミトカを盾にした瞬間、俺の身体は二階の窓から飛び降りていた。

 上から、ガイハックさんの怒鳴り声が聞こえる。

 足の裏にちょっと衝撃があった程度で、他はなんともない。


 無茶だ。

 解っている。

 でも、身体が勝手に動いたんだから仕方ない。

 ガンゼールは……どうやら走ってきた方向に逃げたようだ。

 ミトカを……置き去りにして。


 俺とミトカの間に角狼が一匹、ミトカの後方にもう一匹。

 ミトカは倒れているから、奴らのターゲットは俺だろう。

 落ち着け。

 視線を外すな。

 ゆっくりと、二匹が重なって見えるように身体を移動する。


 さっき書いた『物理攻撃無効』『毒無効』をコレクションにも入れている。

 多分、攻撃をくらっても致命傷にはならないだろう。


 まさかあの時作った“陰陽師っぽい札”を、こんな形で試す事になろうとは。

「コレクション、文字魔法」

 小声で画面を開く。

 コレクション内で二つ折りにして入れていた札を取り出し、開いた。

 画面から向こうが透けて見えるのは助かるな。


 奴らが身を屈めた!

 飛びかかってくる!


「槍っ!」


 重なった二頭の角狼を指さすと、その方向に凄まじい勢いで焰の槍が発射された。

 しまった、一頭はかすっただけだ!

 もう一頭は口に槍が刺さった様だ。


 ギリギリで身を躱して、もう一度指をさす。

「散弾!」

 炎のつぶてが角狼を襲い、なんとか動きを止められた。

 角狼の生死を確認する前に、俺はミトカの元に走った。


 ぐったりとして動かないが……まだ息がある。

 みんなが駆け寄ってくる前に、解毒だけはしておこう。

 食堂を背にし、駆け寄ってこられても見えない位置でコレクションから紙を、そして左胸のペンを取り出す。

 手にした紙はハガキ大くらいだったので、急いで『解毒』『回復』と二行に書いた。

 そうだ、内臓と筋肉だけなら治しても表面の怪我はそのままだから、傷が思ったより浅かった、程度で済むだろう。

 あ、神経に傷が残るとまずいな。

 俺は近寄ってくる足音に焦りつつ『回復』の後に『……するのは内臓と筋肉と神経系のみ』と続け、ミトカの傷にあてる。

 ふわり、と空気が動くような感じがあって、毒が消えているのか爛れがなくなっていった。


 ミトカの顔色が少し良くなったのを確認したので、紙をポケットに押し込んで振り返る。

 俺が放ったふたつの炎の武器は、角狼を焼き殺したようだった。

 そして、みんなが俺達の側に来る前に、もう一匹の角狼を仕留めた衛兵達もやってきた。



「ばっかやろう! なんて無茶をしやがるんだ!」

 ……怒られた。

 げんこつが思いっきり振り下ろされた。

 痛いふりはするけど、物理攻撃無効のおかげで全然痛くなかった。


「そうだぜ! なんだっていきなり飛び出したんだ! 危ねぇだろう!」

「二階からなんて正気じゃねぇぞ?」

 お客さん達にも怒られた……


 でも、ミアレッラさんには思いっきり抱きしめられて、泣かれた。

 正直、これが一番、堪えた……

「ごめん……なさい」


 でも、本当にどうしてあんな事できたのか解らないんだよな……

 若気の至りって奴?

 若さ故の熱情が、迸り過ぎちゃった感じ?


「正直、吃驚したよ……君の年で、あんな魔法が使えるなんて」

 リシュリューさんの声は少し重い。

 多分、これはやらかした。


「あとで、お話します。ガイハックさん達にも」

「ああ、そうしろ。あんな事ができるのは、熟練の魔法騎士ぐれぇだからな」

 ……やっばー……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る