第23話 同世代(?)と交流しよう
俺がこの町に来て、一ヶ月近くが経った。
少しずつこちらの文字も覚えてきて、【文字魔法】の勉強も進めている。
今日は昼に随分お客さんが来て、食堂は大忙しだ。
そういう、くそ忙しい時に限って変なやつってのは来るものだ。
「おまえか? 『嘘つきのタクト』って」
……誰だよ、こいつ。
初対面の人間に向かって、しかもこの忙しい時間に。
無視だな。
「おいっ! なんで無視するんだ!」
「俺は『嘘つき』じゃねーから別人だ」
……っていうのが、嘘だけどね。
人間、生きてりゃ、何度かは嘘くらい吐くって。
でも会ったことのないやつに、文句言われるようなことじゃない。
「そこ、入ってくるお客さんの邪魔だからどけ」
「え? あ、わりぃ……」
こいつ、意外と素直。
でも、更に無視。
俺はそいつに一切構わず、給仕を続けた。
そいつはお客さん達の視線に居たたまれなくなったのか、表に出て行った。
ちゃんと喧嘩売る度胸もねーなら、突っかかってくんな。
見た目は子供だが、心はアラサーおじさんにメンタルで勝てると思うなよ。
腕力は自信ないけどな!
「ミトカのやつ、何を言ってんだか……」
「知ってるやつなの?」
「うちの近くの木工工房の弟子だ。おまえと同い年……十八だったかな?」
「俺は十九歳だよ、ロンバルさん」
ロンバルさんの木製食器の店は、たしか南西・橙通の六番だ。
この町では、店に個別の名前をあまりつけない。
名前だけ言われたって、どこにあるか判らなくちゃ意味がないからだ。
この食堂も『南・青通三番の食堂』って呼ばれてる。
凄い、効率重視な感じ。
それから一時間くらいして、やっと一息ついた。
まだ食事中のお客さんもいるけど、ピークは越えた感じだ。
そしたら、またあのミトカってやつが入ってきた。
こいつ、外で待っていたのか?
「おまえか? 『嘘つきのタクト』って」
あ、やりなおした。
なかなかの
「ミトカ! いい加減にしろ」
「あ……ロ、ロンバルさん? なんでまだいるんだよっ」
「飯はゆっくり食うもんだからな」
そう、この町の人達には食事をゆったり楽しむ習慣が根付いているのだ。
特に昼食には、三時間近く掛けて、食事・デザート・お茶を楽しむ人もいる。
「なんで俺が『嘘つき』なんだよ? ちゃんと説明できたら話、聞いてやる」
「お、おまえ……っ! 嘘つきと話なんか……」
「じゃ、帰れ」
「聞けよ!」
「初めてあった人を、根拠なく嘘つき呼ばわりするようなやつの話なんて聞きたかねぇよ」
あくまで上から目線。
「証拠もないくせに、そういうこと言うやつは大嫌いだしな」
「ガンゼールさんに嘘ついただろ!」
……ガンゼール……って誰だっけ?
あ! あの医療事故の医者か!
「ガンゼールって人が、そう言ってるのか?」
「そうだよ! 魔法も使えないくせに、付与魔法師だって言って迷惑掛けたんだろ!」
「その人に、俺は一度も会ったことがない」
「え……?」
「ガンゼールって人を俺は知らないし、会ったことも話したこともない」
「……嘘だ」
「それに、俺は一度も誰かに、自分が付与魔法師だって言ったことはない」
「嘘だ!」
「おまえ、初めから俺の話を信じる気がないなら、なんで話しかけてきたんだよ?」
「ガンゼールさんはいい人だ! 俺達みたいなのにも優しいし……」
「俺にとっては、会ったこともないくせに俺の悪口を吹聴する悪いやつだ」
「……おまえ、本当に会ったこと、ないのか?」
「信じなくてもいいよ。でも事実じゃないことをこれ以上言いふらすようなら」
ちょっと脅しちゃおうかな。オトナゲなく。
「おまえもその人も、絶対許さねぇから」
「タクト、そう熱くなるなって」
「名誉の問題だからね。こいつの方が嘘つきだって認識させないと、俺が認めたことになる」
「ミトカ、タクトは嘘は言ってないぞ。こいつは一度も自分を付与魔法師と言ったことはない」
「……ロンバルさん……で、でも」
「ガンゼールがなんて言ったかは知らんが、タクトは嘘吐きじゃないよ」
……ありがとうございます、ロンバルさん。
実はちょっとムキになりすぎて、着地点を見失っていました。
ロンバルさんの言葉に、ミトカは黙ってしまった。
ミトカにとって、ガンゼールはいい人なのかもしれない。
でも、俺にとっては『絶対関わりたくないやつランキング』第一位になった。
そのままミトカは去っていったが、最後まで俺を睨んでいた。
絶対に、また絡んできそうだ……
「……おさまったかい?」
「すみません、ミアレッラさん」
「いいんだよ。あんなこと言われて、黙ってる方がおかしいからね」
子供の喧嘩だから見守っていてくれたんだな。
「でも、タクトはよくあいつを殴らなかったなぁ? 俺ならぶっ飛ばしてたね」
「やめとくれよ、デルフィーさんったら。タクトは暴力なんて振るわないよ!」
「あはは……腕力は全然ですからね、俺」
「いいんだよ、それで! 殴り合いだなんて、冒険者じゃあるまいし!」
「そりゃ、そうだな」
冒険者ってやっぱり、そういう方法で解決する人達なんだ……
「まぁ、あれで帰らなかったら、あたしがぶっ飛ばしていたかもしれないけどね」
……ミアレッラさん?
こうして初めての同世代との交流(?)は終わった。
同世代……と、言っていいのか疑問だが。
今後もいい関係には、ならなそうである。
まぁ、つまり、
大失敗だ。
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