第22話 異世界の日常生活を満喫しよう

 それからも俺は、ガイハックさんとミアレッラさんにお世話になりながら暮らしている。

 二階の部屋に無償で泊めてもらっているのは、やっぱり心苦しい。

 なので、昼間は食堂の給仕を手伝うことにした。


 ランチタイムはもの凄く忙しいのだ。

 ミアレッラさんの料理は、すっごく美味しいからね。


「タクト、これは五番のお客さんだよ」

「はい!」

 バイトで、レストランのホールをやったこともあるから慣れたもんさ。

 少しずつ常連さんとも、いろいろと話すようになった。


「今日は、野菜煮込みとシシ肉焼きだよ、ロンバルさん」

「おお、旨そうだな!タクトは魔法師なんだろ?いいのか、練習しなくて」

「ちゃんとしてるよ、練習も。でも、今の時間は手伝いが優先」


「そうか、ちゃんと【付与魔法】が使えるようになったら、おまえさんにも頼むからな」

「ああ! いろいろできるようになったら、やらせてもらうよ!」

「タクトー、できたよー」

「はーい!」

 こういう何気ない感じ、ホントいいよな。


 隣から時々カン、カンと鎚を打つ音が聞こえる。

 ガイハックさんの仕事場からだ。


 ガイハックさんは、日用品や魔道具の手入れと修理専門の鍛冶師。

 食堂と同じ入り口だが、すぐ左手に入るとカウンターがある。

 そこで修理品を受け渡ししている。

 工房はその奥だ。

 裏庭からも、食堂の厨房と行き来ができる作りになっていて便利だ。


 昼時の食堂での手伝いが終わると、俺は工房でガイハックさんの修理を見せてもらっている。

 ちょっと手伝ったり、色々な素材について教えてもらったりして過ごす。


 夕食時に、また少し食堂の手伝いをする。

 でも、暗くなったら子供はダメだと、すぐに引っ込まされるのだ。

 子供……なので仕方ない。


 夕食後に三人で、お茶を飲みながらいろいろと話をする。

 今日来たお客さんのこととか、どんなものを修理したとか。

 お客さんが教えてくれた、町で聞いた話なんかも。

 ……本当に、家族みたいに。



 そして部屋に戻って、俺は文字の練習をする。

『このノートに書かれた文字は魔法が発動しない』と表紙に書いたノートを作った。

 これなら何を書いても大丈夫。

 存分に、カリグラフィーを練習できる。


 まだ慣れない空中文字も練習する。

 これは魔法が発動しないノートには、インクが乗らなかった。

 この文字自体が、魔法だからだろう。

 なので、別の紙で魔法が発動しても大して変化しない様な単語を選んで練習している。


 空中文字の魔法は万年筆だけでなく、筆にインクや墨をつけても書くこともできた。

 まぁ、書道もカリグラフィーのひとつではある。

 ただ、筆の場合は空中文字だと途中でぽたっと墨が落ちてしまい、文字が崩れることがあった。

 筆を使う場合は、インクや墨の量にかなり気をつけないといけない。


 そして、あまり長い文言には向かない様だ。

 空中文字では墨の付け直しができないし、文字が掠れると効果がかなり落ちる。

 相当練習しないと、綺麗に書けないだろう。


 書道でなら縦長の紙に、お札みたいのを作ってもいいんじゃないかな。

 陰陽師みたいで、ちょっとカッコイイじゃないか?



 こんな検証と練習も、夜の十二刻……日本時間だとだいたい夜の十時くらいまでと決められていた。

 ちゃんと寝ないと、ミアレッラさんにめちゃくちゃ怒られるのだ。

 ……前科があるから仕方ない。


 そして朝。

 天気が良ければ、俺は店の前を軽く掃除してから、ランニングに行く。

 体力作りは、やはり魔法だけに頼っていてはできないようだから。

 心身共に健康だと、いい文字が書ける。

 はずだ。


 朝の町を走るのは気分が良いし、町の人達と挨拶を交わすのも悪くない。

 時々、早起きのリシュレアばあちゃんと、彼女の店の前で話をしたりする。

 俺はじいちゃんとか、ばあちゃんには弱いのだ。


 リシュレアばあちゃんの店は手芸工房だ。

 綺麗な刺繍糸を沢山売っている。

 アレに魔法を付与できたら、凄い刺繍ができたりしないかなぁと思っている。

 いつか試してみたい。


 朝食の時間までには家に戻る。

 三人で朝ご飯を食べて、ミアレッラさんと一緒に厨房で食堂開店の準備をする。

 食堂は五刻四半時、日本の時間で午前十時半からだ。


 そしてまた、ランチタイム。


 そんな風に一日が回っていき、楽しく、ゆったりと時間が過ぎていく。

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