第21話 組合長にも報告しておこう
ガイハックさんとの話が一区切りついて、俺は一度部屋に戻った。
あとで魔法師組合に行って、俺の現状を報告しようと言われた。
そうしておけば無茶な依頼などは来ないだろうし、断りやすくなるということだ。
それにしても……回復できる魔法師が少ないってのは、びっくりだった。
一番、需要が多そうなのにな。
素質の問題なのか?
なんにしても、気をつけなくちゃな。
そうだ、偽装して身分登録しちゃったから、本当だとどういう表記になるのか確認してみよう。
変化があると内容が更新されるみたいだから、きっと変わるはずだ。
“コレクション”から役所で書いた紙を取り出して、ふたつに折る。
こうすれば【文字魔法】は発動しないはず。
「そんで……ドッグタグ、じゃない、身分証……っと」
取り出して、両手で持つと細かく振動してわずかに光り大きくなった。
「んん?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
名前 タクト 家名 スズヤ
年齢 19 男
出身 ニッポン
魔力 2685
【魔法師 三等位】
蒐集魔法 文字魔法 付与魔法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【文字魔法】……は、いいとして、【付与魔法】もちゃんと使えるようになってる。
空中文字を使える様になったからか?
【蒐集魔法】ってのは“コレクション”の事かな。
そうか、アレも魔法か。
だよな、うん。
魔力が増えてるのも気になるけど、なんだ、この年齢?
…じゅうきゅうさい?
なんで?
なんで?
なんで若返ってるの?
これじゃ、マジで子供じゃねーか!
あっちの世界でも、成人前じゃねーか!
いや、今は選挙権有るし、成人式も十八歳だから……微妙か。
でもおれの感覚では、大人は二十歳から、なんだよな。
あ、鏡!
こっちに来てから、鏡を見ていなかった。
窓硝子とかも微妙に湾曲があるのか、ちゃんと映らないんだよな。
確か、仕事用の鞄の中に手鏡があったはずだ。
カルチャースクールはおばさま達相手だから『身だしなみは必ずチェックして!』ってきつく言われてたんだよ。
鏡に映っていたのは……明らかに若返った顔だった。
こりゃー、誰が見ても子供だわ。
異世界って、来ると若返るものなの?
「とにかく、隠しておきたい項目が表示されないように、書き換えよう」
“身分証に『家名スズヤ』【蒐集魔法】は表示されない”
家名なんて項目がわざわざ出るってのは、きっと意味があるからだ。
面倒事かも知れないから、隠しておく。
【文字魔法】は……説明できるけど、【蒐集魔法】の方は説明できない。
特殊なものでないと判ったら、表示すればいい。
中に入ってるものを出せって言われたら困るし。
“魔力は『2300』で表示”
これもあまり多いとマズイらしいし、一日で三百八十五も上がっていたら流石におかしいだろ。
“いかなる鑑定魔法でも、身分証の表示以外のことは鑑定に出ない”
うん、いきなり魔法を使われることはないと思うけど、用心に越したことはない。
小心者で結構。
自己防衛だよな。
年齢は……毎年書き直すの面倒だし、この外見だし。
役所の記載違いって事にしてもらっちゃおう……
ごめんなさい……役所の皆さん。
そして書いた紙をコレクションにしまって、もう一度身分証を確認する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
名前 タクト
年齢 19 男
出身 ニッポン
魔力 2300
【魔法師 三等位】
文字魔法 付与魔法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うん。
これでいいや。
……魔法師組合に、年齢の訂正も伝えておこう。
更に子供期間が長くなってしまう……早くオトナになりたい……
魔法師組合に来た。
ガイハックさんがラドーレク組合長に俺のできること、できないことを説明してくれた。
上手いこと【回復魔法】のことは伏せてくれて良かった。
ちょっとガイハックさん、過保護すぎないかなぁとは思ったけど甘えておこう。
ありがとうございます。
「そうか、ガイハックが確認したとおりなら、先ずは安心だね」
「ああ、目の前でやって見せてくれたからよ。間違いねぇ」
「良かったよ、あまりに優秀すぎる未成年は本当に危険だから」
狙われるって奴?
「魔法が不安定なのに、おだてられて使って大怪我……なんて事もあるしねぇ」
……物理でも、大変なことになるんだな。
マジで気をつけよう。
その後、簡単に実演してみせて、ラドーレクさんはすっかり納得してくれた。
流石に回復はまずいから、少しの水を出しただけだったけど。
「あ、あのぅ、もう一度、身分証を見てもらえたりしますか?」
「ん? 一度登録してるから、別に確認しなくてもいいよ?」
「いえ、さっき大きくしてみたんですけど、なんか文字が初めと違う所があって……」
「文字が違う?」
「ああ、こいつはまだ、こっちの文字が読めねぇんだよ」
ガイハックさん、ナイスフォロー。
「はい、故郷と全然違うので、これから覚えようと……」
「そうか、じゃあ確認してみようか。……? おや?」
石板に乗せた身分証から映し出された文字を読んで、ラドーレクさんが首をかしげる。
ですよねー、年齢、変ですよねー。
「タクトくん……きみ、十九歳なのかい?」
「実は……なんで二十三歳って出たのかずっと不思議で。それ、直っているんですか?」
「うん、十九歳になってるね、今は」
「おいおい、なんだそりゃあ? 役所の鑑定魔法が間違えるなんて、有るのか?」
「初めてだよ……もしかしたら、君が他国の出身だから年齢の換算が狂ったのか?」
「ああ……暦が違うって国も、あったな。そうか、それでか」
そうなんですか?
暦って、全世界共通じゃないのか。
あ、グレゴリオ暦と太陰暦みたいな違いか?
「それと【文字魔法】って初めて見たよ。さっき説明してくれた奴だね」
「そうです。俺の故郷の文字なんで、こっちでは認められていなくて出ないんだと思ってました」
「なるほどな……じゃあ、おまえは文字魔法師でもあるってことか」
文字魔法師……!
いいな、うん、嬉しい。
嬉しいついでに贅沢、言っちゃおうかな。
「文字魔法師……故郷では【カリグラファー】って呼ばれているんです」
「ほう、美しい響きだね、カリグラファーか」
「うむ、いいな。おまえに似合ってるじゃねぇか」
くくぅ!
ふたり共、いいこと言ってくれるなぁ!
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