第18話 目上の人の忠告はちゃんと聞こう

 翌朝、俺はほぼ徹夜でふらふらだった。


【文字魔法】の検証実験を繰り返して、寝そびれてしまったのだ。

 楽しくなっちゃって、止められなかったんだけどね……


 朝食を食べてる途中で、何度となく居眠りをしてしまった。

「タクト、昨夜ずっと起きていたでしょ? 何してたの?」

「えーと……魔法の……練習」


 ミアレッラさんに、大きな溜息をつかれた。

「食べるより、眠る方が先ね。ほら、あとでまた食べればいいから」

 でもー、立ち上がりたくなくてー……


「おいおい、なにやってんだ、タクト!」

 ガイハックさんに、ひょいと抱き上げられた……

 本気の子供扱いーっ!

 でも、眠くて抵抗できない……


「ずっと魔法使ってやがったな? 魔力切れ寸前じゃねーか」

 魔力って……使いすぎると、こんなに眠くなるのか……


 そのままガイハックさんは、俺を脇にかかえるようにして部屋まで運んでくれた。

 すみません……お手数おかけします……

 ガイハックさん、めっちゃ力持ちだなぁ。

 ねむ……




 起きました。

 ……どうやら、もう昼過ぎのようだ。

 まだ少し身体が怠いのは、例の魔力切れってやつの影響かも。

『体力増強』じゃ、カバーできないんだな。

 魔力がどういうものかよく判らないから、魔力の自動回復なんてできないだろう。

 体力の完全回復……ってのも無理だろうなぁ……


 そうだ、『魔力切れ症状の軽減』っての書いておこう。

 そしてもう少し、自重しよう……


 食堂の方に降りるとミアレッラさんがお昼ご飯を出してくれた。

「朝は……すみませんでした」

「そうだよ、無理しちゃダメだからね。ちゃんと夜は寝て、身体を休める! いいね?」

「はい、気をつけます」


 硬めのパンだけど、香ばしくって美味しい。

 今日はトマトのスープだ……沢山野菜も入ってて、腹にしみる……

 あ、肉。

 うまうま。


 食べ終わった頃にちょっと渋い表情のガイハックさんに、上の部屋に来るように言われた。

 ……無理しちゃったからなぁ……お説教かなぁ。

 ガイハックさんの部屋に入ると、机の上に見慣れない物があった。


「これは、音が周りに聞こえないようにする道具だ」

「他の人に聞かれない方が、いい話なんですか?」

「そうだな。おまえの魔法に関することだから」

 ……昨日の検証を見られていたのか?


「おまえの……【回復魔法】な……」

 あ、違った。

 小屋で使った治療の魔法のことか。


「あれは……かなり、特別な魔法だ。おそらく【回復魔法】っていうのとは違うものだ。絶対に、他のやつに知られない方がいい」

 そういえば、初めて見るタイプの魔法だって……

「普通じゃねぇってのは言ったと思うが、普通の【回復魔法】から説明するぞ」

「はい」


 ガイハックさんの話で、普通の【回復魔法】とはかなり違うことが解った。

 まず、傷はすぐには消えない。

 五分以上魔法をかけ続けて、浅い傷がやっとふさがる程度らしい。


 そして、傷は治せても、毒を消すことはできない。

 俺が治した時には、角狼の毒が完全に消えたらしい。

 あいつ、毒持ちだったのか……


 そして、古傷は治せない。

 一度ふさがった傷の傷跡は、消せないらしい。

 だが、ガイハックさんの右の足にあった、昔の傷跡までなくなったという。


 ……あの時書いたのは……『傷を完治』だ。

 そうか、身体の傷跡全部に反応したのか。


「おまえの魔法は、効き過ぎる。医者でも治せないものが、治せるかもしれねぇ」

「……それは、有効活用できるのでは……?」

「その力を使って瀕死のやつを助ければ、医者に行くよりおまえに治してもらおうとみんな思うだろう?」

 うん、俺だってそういう人がいたらそうする。


「でもな、力も魔力も有限だ。全員を治せるとは限らねぇ」

 ……そうだ。

 途中で今日みたいに、魔力が切れて使えなくなったら……

「しかし、おまえに治してもらえなかったやつらは、おまえを恨むだろう」

「……」


「それに、どんな怪我をしても全部すぐに治せるとなりゃ、今まで慎重に行動していたやつでさえ、無茶をするようになる」

 ……その通りだ。

 危機感のボーダーラインが、下がってしまう。

「だが、そいつ等が怪我をした時に、いつでもおまえが治せる場所にいる事はできねぇ」

「そう……ですね」


「勘違いするなよ、絶対に使うなって言ってるんじゃねぇ。無闇に使うなって言ってるだけだ」

 でも、使うことのリスクはもの凄く高いってことだ。

「それに……回復系の魔法が使えるやつは……狙われやすい」

「狙われる? 誰に、ですか?」


「冒険者って呼ばれているやつらに、だ」

 冒険者……?

「冒険なんてもんが好きなやつらは、基本的に無茶をする。大怪我だって日常茶飯事だ」

 そうだろうなぁ……まぁ、だからこそ慎重な人もいるんだろうけど。


「そいつらにとって、回復できる魔法師は喉から手が出るほど欲しい人材だ」

「そっか……怪我しても治せれば、またすぐに冒険に出られる」


「あいつら、良いやつもいるがだいたいが荒くれ者で、力尽くで相手に言うことをきかせるやつも多い」

 ……荒くれっていうか、それって『ならず者』ってジャンルでは……

「攫われて、無理矢理従わされてる魔法師もいるらしい」


「それ、逃げられないんですか? 他の町に行った時に、保護を求めるとか……」

「そういう魔法師は隷属契約させられていたり、逆らえないように脅されていたりするようだ」

 ……隷属契約なんてあるのか。


 大きすぎる力や、優れた能力は狙われやすい。

 そして、もし知らずに隷属なんてさせられたら……

 俺は、今までの人生では考えられない種類の恐怖を感じた。

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