第17話  新しく発見したことで実験しよう

 銀色になったんじゃない。

 材質が、銅から銀に変わったようだ。


 いや、それよりも!


 銀に変わった板には、インクと同じ色で文字が書かれたままだ。

 こすっても、水を掛けても、消えないし滲まない。

 洗剤でも、アルコールでも落ちない。


 削ってみても削り取れなかった。

 周りに傷が付いても、文字そのものは全く傷ついていない。

 油性マーカーで黒く塗りつぶしても、時間が経つと文字が浮き上がった。


 この他の文字も同じ場所に書けるのか?

 銀板の“SILVER”の隣に、なにか書いてみよう。


 金属板に触れないように少し浮かせて万年筆を走らせる。

 インクが、空中に文字を書く。

“SWORD”

 文字が板に付着。

 すうっ、とインクが金属に吸い込まれ……銀の板が小剣になった。


 質量は変えられないのだろう。

 カッターくらいのサイズだ。


 次はSWORDの文字の真上から“BOARD”と書いてみる。

「上書きされた…!」

 SWORDの文字が消え、BOARDに書き換わった。

 そして剣から板に戻った。


 今度はその上から漢字で“剣”と書く。

 さっきは西洋の両手剣、今回は日本刀みたいな形になった。

 でも、柄や鍔などはなく、刃の部分だけだ。


 同じ意味の言葉でも、文字が違うとできあがるものが違う。

「空中で書いた文字は、くっついた物の状態を変化させるんだ」


 試しに紙に空中文字を書いてみる。

“SILVER”……銀紙になった。

 折り紙の銀色の紙みたいな感じだ。


 カタカナで書いても、何も変わらない。

“シルバー”が、日本語ではないからだろう。


 紙に直接書くとその物品が現れたのとは全く違う。

 だが、紙が金属にはならなかった。

 元の素材と同系統の物にしかならないのだろう。


「【文字魔法】……いろいろできすぎだろ?これ。もう、錬金術とかいう感じ?」

 金属であれば“GOLD”と書けば、金になるだろう。

 石に“DIAMOND”と書いたら、ダイヤにもなるのだろう。

 絶対に悪用しちゃいけない奴だ。


 それにしても……空中文字は【付与魔法】に近くないか?

 マーカーとか鉛筆でも試したが、万年筆以外では空中文字は書けなかった。

 勿論、指で書いてもダメだった。


「金属の方は無理だけど、紙の方なら破れるかな?」

 空中文字で銀紙になったものを、文字が切れるように破ってみる。

 普通の紙に戻った。


 つまり、鉄を金にしても、それを溶かすと文字も溶けて鉄に戻る……のかな?

 小さめの紙に“この紙に触れた金属は溶けろ”と書いて、銀の剣の文字の上に乗せる。

 とろり、と金属が溶けて銀が銅に戻った。


“剣”の方は消えていないからか、溶けて離れた分が少なくなった小さな銅剣になった。

 溶けた銅は机の上でまだ液状のままだ。

 溶けろと書いた紙を取り除くと、そのままの形で固まった。


 やべぇ、理科の実験みたいな気分になってきた。

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