第19話 大切なことは何か考えてみよう

「すまねぇ、脅かしちまったかな。でもよ、こういうことが起こることがあるって解ってて欲しいんだよ」

「はい、大丈夫です。俺、魔法の使い道が解って、少し浮かれてたのは事実ですし」

「おまえの魔法は、きっともの凄く役にたつだろう。多分、おまえの想像以上の効果を上げる」

「……大袈裟ですよ」


「そんなこたぁない。【回復魔法】にしろ、それ以外にしろ、おまえの魔法はおそらく全部強力だ」

 ……そうかもしれない。

 魔力量も珍しいくらい多いらしいし。

「おまえの魔法を求めて、遠方から来るやつだっているかもしれない」

「……」


「でも、その魔法を使うか使わないか決めるのは、おまえ自身だ」

「俺、自身……」

「そうだ、誰がなんと言おうと、どんな状況だろうと、たとえ大勢の命がかかっていようと」


「おまえ自身を犠牲にしてまで、その魔法を使わなくていいんだ」

「でも……大勢の命がかかっていたら……」

「いいや、おまえはまず、自分のことを考えろ。自分が幸福になることを、だ」

「……利己的に感じます」


「そうだな。傍目から見ればそうだろう。でもな、自分の幸福を考えられるのは自分だけなんだぞ」

「自分の幸福を優先しろってことですか?」

「そうだ。誰もおまえの幸福を優先してはくれない。おまえ自身の幸福は、おまえが護るべきたったひとつのものだ」

 いいのかな……そんなんで。


「後ろめたいか?」

「少し」

「自分の幸福より、他人の幸福に価値があるというならそれでもいい。でも絶対違う」

「……」

「自分の幸福も他人の幸福も、同じ価値なんだ。自己犠牲なんて、全く意味がない」


 自己犠牲……とても、美しい言葉なのかも知れない。

 けど、俺もこの言葉は嫌いだ。

 その上に立って涙を流すやつらは、絶対に自分を犠牲にしないからだ。

 そして感謝されたって、犠牲になった人は幸福にはならない。


「幸福の価値は同等……っていうのは、わかります」

「うん、それだけでも解りゃいい」

 ガイハックさんは、強くて優しい。

 だから、そう言い切れるんだ。

 俺は、そんなに強い心を持てるだろうか。


「まぁ……最終的に決断するのは、おまえ自身だ。どう生きるか、何を選ぶか、全部」

「はい」

「俺は、多分おまえがすることに反対したりもすると思う」

「……なるべくしないで欲しいですね」

「するさ。おまえが、自分を大事にしないような決断をしそうならな」

「はい……」


「いいか、自分が嫌なことはしなくていい。どうしてもしなきゃいけなくても、最後まで別の道を探すことを諦めるな」

「きつそう……」

「頑張れとはいわねぇ。ただ、責任が取れること以外は、絶対にするな」

「はい」

「責任ってのは、他人に対してだけじゃねーぞ? 自分自身の心に対しても、だ。自分を裏切るような真似だけは、しないでいろ」

 ガイハックさんって、本当にお節介で、説教好きで……いい人だなぁ。


「お、おい、別に苛めてるわけじゃねーし、怒ってるわけでもねぇからな?」

「わかってますよ、でも、人にこんなに心配してもらえるの、凄く久しぶりだから……」

「タクト……」

「ちょっと……いえ、結構、嬉しいなって、思ってるだけです」


 俺にとって一番大切なこと、大切にしたいことをもう一度考えよう。

 それで、自分の行動を決めれば、きっと後悔しないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る