第3話 できることを確認しよう

「……あったとしても、見られるだけじゃなぁ」

 画面を十ページまで進めたところで、手を止めた。

 俺は結局、現状が何も好転していないことに気付いてしまった。

「でもまぁ、好きな物達を見ながら死ぬってのも悪くないかぁ……」


 色とりどりのインク瓶が並ぶ一ページ目を眺めつつ、画面に手を伸ばす。

 インク瓶のひとつに触れた瞬間、そのインクが。

 手の中にあった。


「え……? 取り出せる……?」

 幻か?

 いや、ちゃんと手に持ってる。

 つるつるで可愛い瓶が俺の手の中に間違いなく存在している。

 蓋を開けると、ちゃんとインクが入っている!


 もしかして……この中の物は全部、取り出して使えるのか?

「だとしたら……!」

 キッチンに置きっぱなしにしたK軒の弁当!

 アレがあれば、この鳴っている腹を黙らせることができる……!


 ……なかった。

 最後のページまで、目を皿のようにして探した。

 が、愛するK軒の弁当はなかったのだ。

「なんか食べ物、あれば良かったんだが……」


 ふぉん!


 画面が……変わった。

 キッチンにある食べ物や、備蓄していた物が並んでいた。

「……部屋別になっている? いや、食品とそれ以外……か?」

 一番最初、俺はなんて言ってインク瓶の画面を出したんだっけ……

 確か……

「コレクション」


 出た!

 インク瓶の画面!

「食べ物」

 出たーーーー!

 部屋に常備してあった、ポテチとかペットボトルの水や野菜ジュース!

 調味料類もあるぞ!

 ここに弁当があるのでは!


 ……

 ……

 なかった。


「どういう理屈なんだ……?」

 俺は画面の隅々まで見て『3↑』と書いてあることに気付いた。

「……三個以上ってことか?」


 よく見ると、食べ物の方は商品名の横に下向きに三角マークがある。

 三角マークに触れると、ずらっとラインナップが出て来た。


「おおー、ポテチは商品名と味が……そっか、全部合わせて三個以上あった物だけ、ここに表示されてるのか」

 多分、弁当がなかったのは俺の家にあった『弁当』がひとつだったからだ。


「コレクションの方は表記が違うな……『5↑』……でも食品みたいにまとめられていないぞ?」

『インク』や『万年筆』はメーカー別・シリーズ別・色別に並んでいる。

 同じものが二個以上ある場合だけ、三角マークが付いているようだ。


 コレクションの表記は、眺めて楽しむことができる仕様になっているのだ。

 なんてコレクターに寄り添った素晴らしい機能だ……!

 しかも全部持ち歩けるとか、最高すぎだろ!


 さっき取り出したインクを画面に近づけると、すっと中に吸い込まれた。

 取り出したモノも、再度しまえるようだ。


 取りあえず、俺は靴を出し、靴下の替え、パーカーの上着を出して身につけた。

 ……でも、なんで服や靴が『コレクション』に入ってるんだ?

『日用雑貨』とか『服飾』とかでも良さそうなものだが。


「取りあえず、なんか食おう」

 すぐに食べられるものがポテチだけだったので、野菜ジュースと一緒に腹に入れる。

 これがなくなったら終わり、なんだろうな……


 水と鍋があったって、火がつけられなきゃお湯が沸かせない。

 つまり、カップ麺は食えない……

 アウトドアスキルゼロどころか、マイナスの俺には火おこしなんて無理!

「非常持ち出し袋は……ひとつしかなかったからなぁ……」

 ひとり暮らしでは、複数買わないよね……

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