第13話 演義で盛られた人たち

 漢の孝献皇帝 初平二年(西暦191年)。


「孫堅がまだ粘っているのか」


 董卓は素直に感心した。孫堅という男は前に涼州の反乱を討伐するために、張温が総大将となったとき、董卓の同僚として参戦していた。孫堅はもともと江南の反乱討伐に功績があった男であり、涼州での戦いは不慣れなはずなのに、意気は大変高かった。


 張温は宦官と仲が良く、賄賂で地位を買った男である。世の中の問題は宦官であり、宦官は討伐されるべき存在である。そう思っている董卓からすると、張温に協力するのは面白くない。なんとなく総司令官の張温の呼び出しに遅刻し、叱られても平然としていた。

 

 それに激怒したのが孫堅である。部下が総司令官に対して不遜なのでは統率が取れない。孫堅は張温に対して董卓を斬れと激しく迫った。張温は優柔不断で決断ができない。董卓は斬られずに済んだ。

 孫堅はその後も積極的に作戦を提案したが、張温とその側近が無能なため採用することができず。討伐軍は成果を上げられなかった。


 董卓としてはそんな孫堅が嫌いではない。孫堅の作戦は堅実であり、統率を重視するのは軍人としてはむしろ信用できる。


 そして反董卓連合軍の中で、唯一戦意を失っていないのが孫堅であった。

 

(惜しいな)


 孫堅は反董卓連合軍結成の当初から兵を挙げてきており、積極的に作戦を続けてきている。あれほど有能な男ならばぜひ味方にしたいのだが、孫堅があまりにも敵対的なため望み薄であった。


 それはさておき、孫堅が敗兵を集めてまた、洛陽の南、梁県の陽人にて旗を掲げているという。放置するわけにはいかない。

 しかし、董卓軍第一の猛将である中郎将の徐栄の部隊は連戦で疲れ切っていた。なお、この当時の董卓軍で中郎将というのは董卓の娘婿の牛輔と同格である。牛輔は娘婿として董卓の全権代理のような形で別動隊率いることが多く、今は河東に駐屯している。董卓の率いる本隊の筆頭は徐栄であった。


 さて、三国志演義では董卓軍の武と言えばまず呂布。そして華雄。智謀では李儒と賈詡となっているが、史実では全然違う。呂布は外様の并州人であり、騎都尉という一武将でしかない。また董卓は呂布を主に護衛に使っており、一時期を除いて戦争にはほとんど派遣していない。華雄も独立して一軍を率いたことはなく、補佐が仕事だ。賈詡もそうである。李儒に至っては董卓軍に所属したことなどない、朝廷の官吏である。だいたい李儒の活躍というのは三国志演義で盛られている。


 史実の董卓軍は、まず董卓の娘婿として信用されている中郎将の牛輔。そして董卓軍の筆頭武将である中郎将の徐栄がいる。そして大幹部として涼州の大豪族出身の胡軫、楊定が挙げられる。一般武将に李傕、郭汜、張済、樊稠と言った面々がおり、さらに一段下に華雄と賈詡。そして外様の呂布という構成である。演義の知識からすると違和感があるが、史実はこっちだ。


 余談が長くなった。董卓は孫堅討伐に、大幹部の胡軫を派遣することにした。胡軫を都督として歩兵騎兵あわせて五千を預け、騎都尉の呂布に騎兵を率いさせた。さらにその下に華雄を付けている。資治通鑑では華雄は都督となっているが、この部隊の大将は胡軫であり、華雄が都督なのはおかしい。軍目付として補佐につけられていたか、都尉の誤記であろう。


 胡軫と呂布は仲が悪かった。胡軫は涼州人であり、呂布は并州人である。また胡軫は大豪族出身で身分が高く、将校としてならばともかく将軍としての能力はそれほどでもない。そもそも董卓軍には有能な将校は多かったが有能な将軍は少なかった。董卓が率いれば強いが、それ以外の戦線では戦果に乏しい。胡軫は性急であり、孫堅に対して速攻で臨もうとした。


 胡軫の部隊がなんとなくぎくしゃくしたまま陽人に進むと、孫堅が少ない兵をかき集めて攻撃を仕掛けてきた。


「敵襲だっ!!」

 呂布が叫ぶ。


 胡軫は歩兵を率いて孫堅を迎撃しようとしたが、部下の足並みがそろわない。


「賊が来ているぞ!」

 呂布は叫んで回るばかりで戦おうとしない。胡軫が偉そうにしている分、口ほどのことがあるか戦って見せろと思っている。


 そこに、少数ながらも精鋭が残った孫堅の部隊が土煙を上げて突っ込んできた。


 胡軫の部隊は総崩れになり、華雄が討ち取られた。


「敵将を討ち取ったり!」


 孫堅が大声で叫び、それを聞いて胡軫軍が崩れたつ。呂布は内心それみたことかと馬鹿にしながら、騎兵をさっさとまとめて逃げ帰ってしまった。


 完敗である。


 なお、華雄はここで孫堅と戦って戦死したことで史書に名が残り、三国演義で出番が貰えた。演義では董卓軍筆頭の猛将として胡軫を副将に従え、逆に孫堅軍を返り討ちにするなど反董卓連合軍の武将を数多く倒した。そして最後に関羽に討ち取られる栄誉が与えられた。史書では戦死しただけでそれ以外の活躍はない。


 


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