第9話 反董卓連合軍が混迷を極め、董卓は洛陽を焼く

 三国志演義においては曹操が天子の密詔を受けたと称し、檄文を飛ばして袁術から袁紹に至る十七鎮の諸侯が集まって盟を交わし、袁紹を盟主に推薦したとあるが、史書では違う。


 まず洛陽から黄河を渡った北岸の河内に袁紹と王匡、そして鄴から韓馥が兵糧の支援。洛陽のある河南尹を出てすぐ東、兗州の酸棗に曹操ら関東の諸侯。洛陽のある河南尹のすぐ南、荊州南陽郡の魯陽に袁術がおり、長沙の孫堅が北上しつつある。


 これら三つの勢力はお互いあまり連携もせずに作戦をとろうとしており、まず初手で突出した王匡が董卓にほぼ全滅に近い被害を受けたのは前に言ったとおりである。


 なお、三国志演義では西涼太守の馬騰が連合軍に加わっているが、史書では涼州軍閥を率いる馬騰と韓遂は董卓に敵対行動はあまり取っていない。なお現時点でも長安の近郊、右扶風に皇甫嵩が官兵3万をひきいて駐屯しており、涼州の軍閥ににらみを利かせていた。

 涼州軍閥は王国(人名)を首領としていたときに皇甫嵩と董卓のコンビに完敗しているため、関中に攻め込む余裕はなかった。疲弊した朝廷が涼州まで征伐に来れないならばそれで良しとしている。


 

 さて、敵は多いが連携が取れておらず、兵の練度も将の質も指揮系統も正当性も味方が上である。

 上記の状況を踏まえると、純軍事的に董卓の取る手段はこうなる。

 

 いわゆる内線作戦だ。


 内線作戦による優位性とは、分断された敵に対して、当方の戦力を集中して各個撃破を狙えることである。敵が三方向から攻めてくるなら、一方向ずつ順番に殴れば勝てる。

 しかし、内線作戦の問題は、残りの2方向からの攻撃により後方を奪われることである。


 特に、洛陽には皇帝と朝廷の百官がおり、これらを失えば董卓政権の正統性は一瞬で地に落ちてしまう。これでは積極的な攻撃をしかけることができない。


 よって、董卓は果断に判断した。


 百官の反対を押し切り、皇帝を長安に送り、洛陽が敵に奪われても拠点にならないように空っぽにすることである。


 財政が厳しかった董卓軍は、まず物資の値段を不当に吊り上げて利益を得た(と董卓が思った)富裕の家を摘発し、その財産を奪った。


「諸帝の財宝が反乱軍に奪われては問題だから保護いたせ」


 董卓は呂布を派遣して、諸帝の陵や公卿の墓を盗掘させ、財宝を奪った。一応多少取り繕ったが、財政問題の解決が目的である。


 そして、皇帝と百官、そして民の悉くを洛陽から引き払い、長安に送り込んだ。


 洛陽周辺二百里は焼き払われ、焦土と化した。


「よし、戦いやすくなったぞ」


 これで足手まといはいなくなり、財政問題は解決し、長安に遷した財宝のおかげで補給は関中地方からいくらでもうけることができる。


 


 もちろんだが、百官は猛烈に反対した。しかし、皇帝の廃位の時は一人しか発言しなかったくせに、自分たちの家が焼かれ、墓が奪われるとなったら名士も必死である。

 

「今更何を言うか!」


 反対した三公を罷免すると、代わって王允を司徒につけた。さて、王允は反対しなかったのだろうか。

 そして董卓が信頼して人事を任せた伍瓊、周毖も反対したため「そもそも貴様らが反乱軍に参加した太守たちを推薦したのだろうが!」と言って斬り捨てた。


 この時、董卓は「長安にいけば涼州軍閥も支援すると言っている」と宣言している。涼州は董卓の出身地であり、涼州人の董卓が政権を握っている朝廷に対して、馬騰や韓遂らは比較的好意的だったと思われる。



 三月。皇帝は長安に入った。しかし、董卓は軍を率いて焦土と化した洛陽の近辺に居続けた。

 殿軍である。


 普通はここまで大規模な退却を行えば、反乱軍が嵩にかかって攻め込んできておかしくない。そこで董卓まで長安に行ってしまえば、反乱軍の勢いはさらに増しす。

 洛陽の留守部隊を撃破され、反乱軍が合流してしまえば内線作戦の利は一切なくなってしまう。


 なので、董卓は洛陽に残る必要があった。


 そのため、反董卓連合軍はいまだにまごまごして何もしていない。

 実際には袁紹が劉虞と一生懸命に交渉しているが、周囲には分からない。


「やはり袁紹はダメだな」


 状況を固め、優位を積もう積もうとするあまりに、戦争には勢いがあるということを理解していない。


 洛陽が焼き払われるのは旧何進兵を取り込んだ董卓軍の将兵にとっても衝撃的だ。


 (首都を焼いていったいこれで戦争に勝てるのか)と思わない兵は居ないだろう。


 反乱軍にとって千載一遇の勝利の機会である。



 だからこそ、董卓はすべてをかけた決戦を決心した。三方向から攻め込む反乱軍を各個撃破する内線作戦にすべてを賭けたのである。


 しかし。


 北の袁紹は、河内でぼけっと時間が過ぎるのを待っている。

 

 東の兗州酸棗の諸侯は連日宴会ばかり。


 南の孫堅は何をとち狂ったのか、普段から嫌いだった荊州刺史の王叡を殺し、南陽太守の張咨も言うことを聞かないのでさっくりと殺した。一応そいつらも反董卓連合軍に参加した仲間だったような気がするが。


 袁術は大喜びで南陽太守に就任し、孫堅を破虜將軍に任命した。

 南陽は五十万戸。天下有数の富裕な郡であり、さっそく袁術は南陽の富を収奪し、贅沢三昧の生活を行っているらしい。となるとこれらはすべて袁術の指示だった可能性もある。


「あいつらはいったいマジメに反乱するつもりがあるのか!!!!」


 董卓はあまりにもだらしのない敵の状況にいらいらしていた。なんのために一大決心をして洛陽を焼いたと思っているのだ。


「よくよく考えれば、これらはすべて袁隗老人のせいだ!」


 袁紹も袁術もあまりにも滅茶苦茶である。ささくれだった気分の董卓はもはや旧師の恩などどこかに吹っ飛んでいた。


 長安にて袁隗袁基ら袁一族五十数名が処刑された。





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