第3話 武官同士の争いは血を見るまで治まらない
三国志演義では、董卓は
だが、そもそも後漢に西涼州も西涼郡も存在しない。涼州西部という意味の西涼が歴史に登場するのは紀元400年で、董卓の時代の二百年もあとである。
西涼が涼州刺史の間違いだとしても、そもそも涼州に本籍のある董卓は涼州刺史にはなれない。現地出身の人間を長官にはしないという三互の法があるためである。
単純に出身地の親戚や知り合いを優遇するのを禁止すると、今度は地方長官がお互いの出身地に赴任しあってお互いに優遇しあう。さらには結婚して親族になった地方長官が三か所でお互いに優遇しあうなど名士たちは幾らでも抜け道を見つけて我田引水の政治をしてきた。
そのため、これらすべてを禁止する三互の法は名士たちの大反対を受けながらも廃止されずに残っていたのである。
余談が過ぎた。
董卓の最終の官職は前将軍で
これは戦国時代でたとえると、毛利攻めの援軍におくりだしたはずの明智光秀が、毛利攻めを拒否して軍団を抱えたまま丹波に居座っているようなものである。ただの命令無視ではなく、明確な反逆だ。しかしすでに疾篤い霊帝にはどうしようもなく、董卓は放置されていた。
もちろん、并州牧就任の条件である軍隊の解散をしていないので、董卓は并州牧には正式に就任しておらず、并州にも赴任していない。
だが、董卓は并州牧の
さて、前の話で、并州刺史の丁原が登場した。三国志演義ではなぜか荊州刺史になっているが、それだと并州出身の呂布が配下なのはどう考えてもおかしい。そこは羅貫中を問い詰めるとして、いずれにしても并州刺史が正しい。
で、并州刺史も并州牧もどちらも并州の総督職である。刺史よりも牧のほうが権限が大きく、後漢末の反乱多発に対応して牧が置かれた。主に監察が主務の刺史に対して、牧は州の内政軍事人事すべてを握っている。
なので、董卓が并州牧に就任したなら、前の并州刺史の丁原は辞任したはずである。だから并州刺史と并州牧が同時に存在するわけがないのだが、丁原は并州刺史を名乗り続けている。何進大将軍からは代わりの役職として執金吾(近衛隊長)に任命されているが丁原は并州刺史と名乗っている。
明確に董卓への嫌がらせである。
同じように何進の密命を帯びて軍を率いて上洛したのに、なぜ董卓だけが朝廷を牛耳るのか。丁原は納得していない。
同じ状況にあるのが
(そもそも何進に政権を取らせるための挙兵だったはずだ。何進が死んだなら何進派閥を率いていた袁紹が政権を取るべきではないか。すくなくとも董卓ではない。)
そう考えた鮑信は袁紹に董卓を殺すように進言した。しかし袁紹が優柔不断で答えないため怒って兵を率いて故郷の泰山に帰ってしまった。
鮑信は董卓を殺そうとした。丁原はどう考えているか分からない。反乱をちらつかせて政権に参加するつもりだったのかもしれない。
しかし董卓は自分の部下にすら官位を与えずに政治に口出しさせていない。また董卓本人の口出しも最低限にして名士たち(実質は袁隗率いる袁一族)に託すつもりでいた。
なので董卓に武官の丁原を政権に参加させるつもりはなかった。
「丁原はワシを舐めておる」
董卓も武官である。
「殺せ」
判断は早い。
もともと董卓は并州で活動していた時期が長く、并州人の部下も多い。そこで并州人の李粛を使って同じく并州人の呂布を口説いた。
呂布は武勇に優れるだけでなく、丁原に信用され主簿(書記)として文書や帳簿を扱ってもいる。つまり丁原軍団のほぼすべてを把握していると言っていい。
呂布が丁原をあっさり裏切った理由は分からない。ただ、丁原は無駄に董卓に対して挑発的であり、危うい橋を渡っていたのは確かである、呂布たち部下に見捨てられるだけの理由があったかもしれない。ただ、この後の行動を見るに呂布本人もあまり深く物事を考える性質ではないようだ。
いずれにせよ、呂布は丁原を殺し、その兵をまとめて董卓軍団に参加した。
「ワシには息子を早く亡くしたため男子がいない。呂布を我が子とも思うぞ」
董卓はもともと武勇の士は大好きなこともあり呂布は厚遇された。
(自分が丁原を暗殺したように、ワシも殺されるかもしれん)
丁原殺しについては呂布は共犯である。董卓は呂布を重用し、常に側に置くことにした。
― ― ― ― ―
なんとか洛陽の朝廷をまとめ上げ、不満分子を誅殺しおえた董卓のもとに新しい問題が舞い込んできた。
持ち込んできたのは劉弁の教育係である太傅の袁隗である。
「は? 皇帝を取り換えろと!? 正気ですか
一難さってまた一難。董卓は袁隗の発言に驚愕した。
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