第3話
桃子と連絡がつかなくなったのは、それから三日後だった。
僕たちは二人とも、毎晩電話で愛を語り合う、というタイプではなかったが、それでも恋人同士だ。二日も三日も連絡がないのは、今まで経験のない異常事態だった。
お互いの部屋の合鍵は持っている仲なので、直接彼女のアパートへ行ってみる。
「桃子、僕だよ。もしかして、風邪か何かで寝込んでるのかい?」
声をかけながら、勝手にドアを開けて、桃子の部屋に上がり込んだ。
ひとり暮らしの女子大生の、典型的なワンルームだ。
キッチンスペースを兼ねた短い廊下を歩けば、すぐに部屋全体が視界に入る。
桃子の姿は、どこにもなかった。
具合が悪くて寝込んでいるのではないか、電話も出来ないほどの酷い有様なのではないか。そんな最悪の予想が外れて、まずはホッとする。
「ふうっ……」
ため息をつきながら、僕は部屋の真ん中に座り込んだ。テーブルの前に置かれたクッションではなく、クリーム色のカーペットの上に直接だ。
桃子は今、どこにいるのだろうか。そんなことを思いながら、ぐるりと室内を見回してみる。
彼女と何度も愛を交わしたベッドの上には、ピンク色の可愛らしい掛け布団。起きたらすぐにベッドメイクするのが桃子の習慣だから、きちんと整えられていた。
彼女は読書好きなので、本棚にはたくさんの文庫本。僕とは学部も大学も異なるので、机の上の教科書も、僕が読まない
軽い物珍しさから、立ち上がって机に近づいて……。
「おや?」
そこで初めて気づいたのが、机の引き出しの異常だった。
三段あるうちの、ちょうど真ん中の段。ほんの数センチくらい、手前に出ている状態だったのだ。
「おかしい」
思わず、そんな独り言が口から飛び出していた。おそらく僕は、険しい表情になっていたに違いない。
桃子は几帳面な性格であり、机の引き出しを閉じかけた状態で放置するようなタイプではない。ならば、これを開け閉めしたのは、誰か別人ということになる……?
自分でもわかるくらいに、心臓の鼓動が激しくなった。ドキドキしながら問題の引き出しを開けると……。
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