事故多発地帯

私が勤めている会社に通勤するには、山一つ越えなければならない。

流石に車を使わなければならず、苦手な運転も1年を過ぎた頃にはだいぶマシになっていた。

通勤経路の途中に、事故が多発する場所がある。

見通しの良い直線道路なのだが、よくその場所で車が道路脇の側溝に落ちているのを見かける。

見つけるのはいつも朝方のため、前日の夜に落ちるのだろう。

何かあるのかと気をつけて通っても事故の原因になるようなものは見つけられない。

黄色に「!」のみが書かれている標識があるだけで、薄気味悪かった。


珍しく残業をして帰りが遅くなった日、私はその道路で事故を起こした。

側溝に落ちたのだが、事故を目撃していたドライバーに救出され、幸い怪我もなかった。


事故を起こす瞬間を今でも忘れない。

直線道路を運転していると、自然とハンドルが回ってきた。

車体はゆっくりと左側に曲がっていく。

どれだけ力を入れても、まるで誰かが抑えているようにハンドルはうんともすんとも動かせない。

タイヤが縁石にぶつかり、ギギギと嫌な音を鳴らしはじめる。

私はブレーキを踏んで減速しようとしたが、ブレーキが効かない。

ブレーキがかからないというより、感覚だ。

何かブレーキペダルに挟まっていないか目線を足下に移した。


男なのか女なのかわからない頭部がブレーキペダルに挟まっていた。

真っ暗な中でもわかるほど、その頭部は真っ白な肌色をしており、大きく見開かれた目からは真っ黒な涙が流れていた。

恐怖を感じる暇もなく、私と車はフェンスを突き破り、側溝に落ちて行った。

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