三者面談

 私が以前勤めていた中学校の三者面談での出来事だ。


 採用されてから初めて受け持ったクラスももう3年生になり、おそらく今年度この生徒とたちを見送ったら私も異動だろう。

 3年生になると、卒業後の進路のこともあり、保護者と生徒と担任との三者面談を頻繁に行う必要があった。


 私はその日、教室でSとその母親の到着を待っていた。

 本来であれば、面談を控えた親子は廊下で待っているはずだが、Sも母親もまだ来ていない。


 おそらく、生徒も親も時間を間違えているのだろう。

 そう思い、職員室からその保護者に電話をかけた。


 「いつもお世話になっております。担任のYと申しますが・・・」

 「すいません」


 「あの、三者面だ・・・」

 「すいません」


 会話が成り立たない。

 この母親はこんな人物だっただろうか、いやそんな記憶はない。

 

 埒が明かないので、学年主任に指示を仰いだ。

 しかし、返ってきた答えは意外なものだった。 


 「Sって誰?」


 ハッとして名簿にあるはずのSの名前を探す。


 クラスメイトの名前をなぞっていた指が止まらずに名簿を撫でた。

 Sは元々存在しなかった。

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