夜釣りにて

 私の趣味は釣りで、家から海が近かったので、よく海に釣りに出掛けた。

 その日は、夜釣りをしようと思い、堤防に向かった。

 いつもならここの堤防は夜でも何人かの釣り人がいるのだが、見渡しても人っ子一人おらず、釣り場を独り占めした気分になり嬉しかった。


 釣りをしていると、どこからか子供の声がした。

 誰か遊びに来たのかと思ったが、辺りには誰もいない。

 夜の海の不気味さも相俟って、鳥肌が止まらなくなった。

 帰ろうと思い、準備をしていたら、ふと、視界の隅に黒い影が見えた。


 影の方を振り返ると、自分と同じ服装の人間が堤防に立っている。

 顔は見えなかったが、次の瞬間、それは海に引きずり込まれ、飛沫を立てることもなく、海面に浮かんでくることもなかった。

 

 その光景が、この後の自分なのだと直感し、道具をそのままに走って逃げた。


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