校舎を徘徊する者

とある県立高校で講師をしていた時の出来事だ。

翌日に研究授業を控えていたので、教材研究のために22時過ぎまで学校に残っていた。

1時間前までは何人かの先生が残業をしていたのだが、さすがにこの時間になると警備員も帰ってしまい、校舎には私一人だけだ。

早く終わらせて帰ろうと思い、集中するためにラジオを止めた時だった。


 「コッ・・コッ・・コッ・・」


廊下から足音がする。

革靴の音。

校舎内には私ひとりのはずだし、革靴で廊下を歩く人などいない。

得体のしれないものがそこにいる。

恐怖で動けずにいると、足音は北校舎側から南校舎側へと歩いていき次第に聞こえなくなった。

きっと仕事のし過ぎで疲れて幻聴が聞こえてしまったのだろうと思い込む。

私はすぐに仕事を中断して帰る準備を始めた。

しかし、どうしても廊下が気になる。

廊下に出た時、「アレ」に遭遇したらどうしよう。

廊下の方に耳を傾けると、また音が聞こえてきた。


「ペタ・・ペタ・・ペタ・・ペタ・・ペタ・・」

「コッ・・コッ・・コッ・・コッ・・コッ・・」


先程の革靴の音に加えて、今度は小さな子どもが裸足で歩いているような音がした。

誰もいないはずの廊下を、大人や子どもが歩いている光景を想像すると、孤独感と相まって、背筋が凍り、不安で叫び出したくなった。

音が止んだ頃を見計り、警備を掛け、消灯してふりかえらずに玄関に走った。


それ以来、どんなに仕事が溜まっていても一人で残業をすることはなくなった。

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