憑れてきた

田舎に住んでいた私は、よく友達と心霊スポットに出かけた。

夜になると遊ぶところもないので、ドライブがてら肝試しをするのだ。


その日は、友人2名とS町とT町の町境にあるとあるトンネルに向かっていた。

そのトンネルには、女の霊がおり、声をかけられると取り憑かれると言った噂だ。

現在では使われていないトンネルで、歩いていくことも覚悟していたが、車で草だらけの道を慎重に進むと簡単に辿り着くことができた。

車を降りて、付近を徘徊した。

しかし、特にこれといって心霊現象に遭遇することはなかった。

拍子抜けした感が否めず、いつものファミレスに行ってご飯でも食べようと、車に乗りエンジンをかけた時のことであった。


「ピーピーピー」


車の警告音が鳴った。

シートベルトをし忘れた際のアラームだ。

運転席の私は当然シートベルトをしていたため、後部座席の友人2人に確認するが、どちらもシートベルトを装着していた。

残るは助手席であるが、助手席には誰もいない。

試しに空席の助手席にシートベルトをはめてみると、アラームが鳴り止んだ。

それを見た友人たちは心霊現象だと言って興奮した。

「勘弁してくれよ」

私もその場の雰囲気に流され笑っていたが、正直トンネルに来たことを後悔していた。


その出来事以降も、助手席の警告音は鳴り続けた。

助手席に見えない何者かが座っている。

そう考えるだけで気持ち悪くなり、私はその車を売却した。


次の車が来るまでの代車では、警告音はなることはなかった。

私はこれで怪現象と関わらなくて良いとホッとしていた。


数日後、新車のミニバンが納車された。

ディーラーに行き、車を受け取る。

ワクワクした気分でエンジンをかけた。


「ピーピーピーピーピーピー」


シートベルト未装着の警告音が鳴る。

訝しげな顔をする担当と目が合う。

勘弁してくれと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る