Kさんの行方

 私は市役所の職員をしている。

 大学を卒業してすぐに入庁し、市民課に配属されて今年で2年目だ。

 市民課と言っても窓口ではなく、地域の簡単な道路管理や防犯灯などの建造物の安全管理、地域行事の手伝いなど、何でも屋のようなことをしている。


 今日も早速、市民課の電話が鳴った。

 周りが年上だらけのこの職場で、新米の私は誰よりも早く電話をとった。


 「T市役所市民課Yが承ります」

 「あぁ、Yくんねぇ、元気してたぁ?」


 この声はY町のSさんだ。

 以前、カモシカが庭で死んでいると言うので、回収しに行ったことがある。


 「ご無沙汰しております、何かありましたか?」

 「あのねぇ、隣のMさんとこ、最近見ないのよぅ」

 「呼び鈴鳴らしても出ないから、なんだか心配でねぇ」

 「ちょっと来てくれないかねぇ」

 「わかりました、ちょっと準備するので、30分後くらいに伺いますね」


 Sさんは80歳くらいでかなりの高齢だ。

 しかも昨年に夫を亡くしており、現在は一人暮らしをしている。

 本当であれば警察に電話してもらうのが筋だが、Sさんの様子も確認したかったので、T係長と駐在所のM警察官を帯同し、現地へ向かうことにした。


 「Sさん、こんにちは、Yです」

 「あらぁ、久しぶりだねぇ、元気だったかい?あらまあ、Tさんと駐在さんもご苦労様」


 そう言って、Sさんはお菓子とお茶を用意しようとしだしたが、私とT係長とM警察官は丁寧に断った。


 「Sさん、隣のKさんはいつから反応ないの?」

 M警察官は、慣れた感じでSさんから聞き取りを始め、しばらく話を聞いた後、Kさん宅に向かうことになった。


 Sさんの隣の家にはKさんという60代のお爺さんが一軒家に住んでいる。

 M警察官が何度か、呼び鈴を押したが反応がなかったので、玄関を開けようとしたら鍵がかかっていた。

 裏の勝手口が開いていることに気付き、家の中に入った。


 「Kさん、こんにちはーお邪魔しま・・・うっ」


 家に入った瞬間、むせ返るような汚臭が鼻の奥を突いた。

 Kさんは生きていないと一瞬で察した。


 しかし、臭いはあれどもKさんの姿を確認することは出来なかった。

 あとは警察に任せようと思い帰ろうとした時だった。

 流しの排水溝から、髪の毛の束が飛び出しているのを見つけた。

 まるで、流しから大量の髪の毛が生えてきたかのようだった。

 恐る恐る引っ張ってみると、髪の毛の根元には赤黒いジェル状のものがこびり付いていた。

 これは頭皮だ、と思った。


 それ以降は警察にバトンタッチし、殺人事件として取り扱われたが、いまだに犯人は見つかっていないらしい。

 あとでM警察官からこっそりと聞いた話だが、



Kさんの死体は、“排水溝の中に詰まっていた”らしい。



まるで、何かに足元から排水溝に引っ張られたように。



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