自画像
私の通っていた中学校には、生徒の間では有名な自画像がある。
夜になると、絵の中の人物が、それを見た者の姿に変わるのだという。
しかし、実のところその自画像はほとんど誰も見たことがないのだ。
なぜなら、自画像は美術準備室にしまわれており、美術部員でさえも準備室への立ち入りが禁止されているためだ。
では、なぜ自画像の存在だけが生徒の間に伝わっているのか。
ある事件がきっかけだった。
数年前の夏休み、4名の男子生徒のグループがふざけ半分で夜中に校舎に入り込んだ。
当時は、校舎に機械警備もついておらず、鍵さえ開けておけば容易に侵入が可能であった。
男子たちは、夜の学校で肝試しを行った。
トイレや音楽室、理科室に行ったものの、特に何も起こるわけではない。
最後に美術室に入ってみたのだが、心霊現象は何一つとして起きなかった。
拍子抜けした男子たちが美術室から出ようとしたところ、Aという男子がいなくなっている。
Aはグループの中でも一番のお調子者だったため、仲間たちは皆、彼が驚かすためにどこかに隠れたのではないかと思い、無視して校舎から出た。
しかし、どれだけ待ってもAは戻ってこない。
何かあったのではないかと3人で探したところ、美術室と繋がった隣の美術準備室から「カタン」と音がした。
音がした方向へ行ってみると、Aが壁に掛かった女性が描かれた自画像をじっと見ている。
仲間たちが話しかけても、自画像に見入り、魂が抜かれたように反応がない。
Aの手には、白布が握られており、自画像は白布で目隠ししてあったのではないかと思われた。
何をふざけているのかと3人が苛立ちはじめ、3人が自画像を見た時だった。
その自画像の中にはAが描かれていた。
自画像には、女性が描かれていたはず。
3人は流石にまずいと思い、無理やり彼を引っ張っていこうとした。
Aを引き摺るようにして美術室を出たところで3人が転倒した。
Aから急に力が抜けたのだ。
何をしても、瞬きもせず動かない。
Aは絶命していた。
その話は、現在まで語り継がれている。
内容は変わっているところもあるかもしれないが、実際に美術室で変死した事件は記録にある。
また、美術部員によると、美術準備室の片隅には、白布で覆われた大きなキャンバスがあるらしい。
ふざけ半分で美術準備室に入ろうとした生徒が特別指導を受けたこともある。
美術の先生に「なぜ処分しないのか」と聞いてみたところ、「本当は言っちゃダメなんだけね」と前置きをし、「あれは捨てないと言うよりも捨てられないんだ」と言っていた。
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