かくれんぼ

「もーいーよー」


薄暗い印刷室に隠れ、私はかくれんぼの鬼を待ち構えていた。


小学校の印刷室は、いつも先生が使っているため、誰も入らない。

しかし私は、その日の放課後は大事な会議があるとかで先生はみんな会議室に集まっていることを知っていた。

しめしめと思いながら印刷室のドアを開け、周りを確認して中に入った。

室内は1台の印刷機とコピー用紙が置いてある棚、シュレッダーと裁断機のみで、なんだかドアを閉め切ってしまうと、外の世界、かくれんぼをしているみんなと切り離されたような感覚に陥った。

気分を紛らわすため、廊下に面した地窓をこぶしの大きさくらい開けて、外の様子を覗き見ることにした。


しばらくすると、誰かがこちらへ向かってくる足音がする。

窓からは高さ的に足しか見えない、つまりあちらからは印刷室の中は見えないはずだ。

見つからないと分かっていても心臓はドキドキしている。

足音はどんどんこちらに近づいてくる。

しかし、何かおかしいと感じ、足音に耳をすます。


「ヒタヒタヒタヒタ」


足音は上靴で廊下を歩く音ではなかった。

肌と硬い床がくっつき、離れる音。

裸足で廊下を歩いているような音だ。

鬼が足音を忍ばせるために上靴を脱いだのだろうか。

息を潜め、地窓から廊下をじっと見る。


「ヒタヒタヒタヒタヒタ……」


何者かの足が見え、印刷室の前で止まる。

その足はやはり裸足で、肌の色は灰色に近く、直感的に生きている人間の足ではないことを察した。

その足はこちらに向き直る。

まるでこちらの存在は待ち構えているかのように、足は動こうとしなかった。

私は恐怖で叫びそうになった。

こちらの存在に気付いているのかだろうか。

足はじっと佇み動かない。

もしここにいることを知らせてしまえば何をされるか分からない。

そう思い、口を押さえて息を潜めた。

印刷室には出入り口は1つしかない。

このドアを開けてしまえば、その先の得体のしれないものと相対することになる。

ただ私はここで待つしかない。


何分経っただろうか。

廊下の向こうからガタとドアが開く音がした。

きっと会議が終わって先生たちが出てきたのだ。

その気配を感じたのか、足は踵を返すようにして元来た方向に駆けて行った。


「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ・・・・・・」


会議室の方向から多くの人が歩いてくる音がする。

私は安心感で泣きそうになりながら、印刷室から出ようとした。


いや、待てよ。


私がこのまま印刷室から出てしまっては、勝手に入ったことを怒られてしまうかもしれない。

私は地窓に向き直り、先生たちが通り過ぎてからこっそりと印刷室から出ようとした。


大勢の足音が近づいてくる。

足音が近づいてくるにつれ、恐ろしい想像が現実になるのを感じる。

気配を消して廊下の音に耳を傾ける。

背中に冷たいものが流れた。


「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」

「ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ」



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