第21話 宇宙語
2022年10月8日 土曜日 午後
約3時間のハイキング(というか洸一と陽一の場合全長の半分は走っていたのでトレイルランに近いのだが)はさすがに疲れるものだった。
ハイキングコースの終点は青梅駅近くなので、青梅駅から電車に乗り帰路に着いた。
電車の中では、疲れているので二人は言葉数も少なかったが、疲労回復を促すため江古田のマンションから徒歩圏にあるスーパー銭湯にどちらが提案するともなく自然と向かっていた。
双子、特に一卵性双生児の間では、乳幼児の頃、二人にしか通じない言葉でコミュニケーションする現象が確認されている。その言葉は双子言語とも、双子語とも、あるいは宇宙語とも呼ばれている。
ただし、大抵は乳幼児の間にだけ見られ、双子言語はやがて消滅してしまうと言われている。
洸一と陽一は一卵性双生児ではないし、35歳の立派な成人なので、双子言語とは無縁の筈だが、二人とも何か超言語的な意思疎通ができることは認識していた。
この意思疎通は傍目にはテレパシーのように映ることだろう。なにしろ言葉を発していないのに通じ合ってしまうのだから。だがコミュニケーションに占める言語の割合は実は2~3割に過ぎないとも言われている。彼らの会話を文字に起こした時点で大半の意味は失われてしまうということだ。
脱衣所で当然のように同時に服を同じ順番で脱ぎ、同じタイミングで浴場に行き、同じ所作で身体を洗う。言葉を発しないからこそシンクロするのかもしれない。いや、傍目には無言に見えても何かコミュニケーションをとっているのだろう。
「きょうは焼けたね。木陰も多かったけどずっと晴れてたし、けっこう紫外線強かったかも」
「洸一首から上と腕がくっきり焼けてるよ。ははは」
「同じじゃん」
筋トレはやらないが、毎月300㎞ぐらい走っている二人にはほとんど肉がついていない。十分な睡眠と、節度を持った食生活のおかげで、20代半ばにしか見えない。
「洸一ってかっこいいよね」
「それ自分ほめてるじゃん」
他愛のない会話。
今週初めのいさかいはどこへやら、二人はすっかり打ち解けていた。いや、雨降って地かたまる、が正しいだろう。
しかしあらためて陽一の裸体を観察すると、自分が思っていた自分の身体とは違っていた。鏡で見るのとも違う。所詮人間は鏡を使っても自撮りしても客観的に見ることはできないのだ。脳は常にフィルターをかける。
そして陽一も同じことを考えていた。
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