第20話 発散

2022年10月8日 土曜日


清々しい秋晴れの休日。


きょうは洸一の提案で二人で山に行くことにしていた。目的地は奥多摩。トレイルランを兼ねて青梅線の軍畑駅からのハイキングコースに決めた。


ハイキングコースとは言っても、決して初心者向けではない。距離は15㎞、高低差は累計で3,000m近くもあり、山の中の道なので木の根や岩など悪路続きで体力を奪う。


日頃から走っている二人にとっても、いくら脚力に自信があるとはいってもそれは平坦なロードでのこと。山道は訳が違う。


ランニング仲間のツワモノたちは、週末は山に行くか、坂や階段などでハムストリングを鍛えたり勾配に慣れる鍛錬を積んでいることもあり、洸一と陽一も以前から興味はあった。


朝5時半に家を出、新宿に出て中央線の特快で立川へ、そこから奥多摩線に乗り換え、1時間半ほどで軍畑駅に着いた。無人駅で駅の前にひとつ商店があるだけでコンビニもスーパーも会社もない。ここが同じ東京かと思うほど長閑(のどか)なところだ。


ほんとに何年ぶりかという山登りに、洸一と陽一はそろって気分が高まっていた。軍畑駅からいきなりの急な上り坂を1㎞強歩くとようやくハイキングコースの入口なのだが、二人は子供のようにはしゃぎじゃれるかのようにジョギングで登り切った。


入口は壁のように聳え立つ岩だが、はしゃいでいる二人をますます喜ばせるものでしかなく、一層足を速める二人。洸一のあとに陽一がついていくのがいつものランニングのならい(歩道であまり並んで走れることはないので)なので、きょうも洸一が先を行く。


しばらくはずっと上りだ。10分ほど登り続けたかというところで


「ギャッ」


洸一が何事かと振り返ると、前日の雨で滑りやすくなっていたのもあり、陽一が木の根で足を踏み外して顔面から転んでいた。


「だ、だいじょぶか陽一?」


「うぅぅぅ」


陽一が泥まみれの顔を上げた。


「ギャハハハハ!陽一泥だらけやん」


「ひでー!笑い事じゃないぞ!」


それはそうなのだが、あまりに派手に転んだ陽一を見たのは初めてだったし、気分が高まっていたのもあったのか、洸一はもう何年ぶりかもわからないくらいに大声で腹の底から笑ってしまった。


陽一も洸一の爆笑に共鳴したのか、揃って高らかに笑い、二人の声がこだました。

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