第13話 利他

洸一は独身を貫く意志を固めている。結婚する意義を感じたことがないどころか、結婚など体裁を繕う逃げであり、かつ自分の時間を奪うものと信じて疑わない。


恋愛はしたことがある。女性と付き合ったことも何度かある。

が、決まって彼女たちは洸一に言った。


「あなたは結局自分にしか興味がないの」


そのとおりだ。恋愛する自分、自分の欲求を満たす自分。


男はみなそうじゃないのか。恋愛でもビジネスでも真に利他主義を貫いているひとなんているのか、などと一般化するまでもなく、自分にしか興味がないし、自分を愛しているのだ。開き直るのではなく、事実なのだ。


洸一の信条は、「生きがいとは成長すること」だ。

勉強もスポーツも成長することがとにかく楽しいからがんばってきたし、いまの仕事でもそうだ。


点数とかランニングののタイムとか、数字で表せることはもちろんモチベーションになるが、歳を重ねるにつれ、定量化できない人間の「質」を高めたいと思うようになっている。


そしてその変化自体も成長であり、またそれが洸一の自己愛を高める。


自己愛のポジティブ・フィードバック・ループだ。


自分が好きで好きで仕方がない。


だから自分の複製である陽一も同性だが愛している。


数年前先輩の結婚式に参列した際、神父様が仰っていた。


「アガペーは神の愛。エロスは人間の愛」


どっちの愛だかわからないがとにかく愛だ。いまはそれでいい。

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