第12話 双子
洸一と彼の複製再生人間である陽一は双子に似ている。それも、一卵性双生児を超えて双子らしいとも言える。
行動遺伝学という分野では、生活を共にする一卵性双生児を対象に、人間の能力や性格がどこまで遺伝に基づくものか長年にわたって研究しているが、能力も性格も先天的(遺伝)ではなく後天的(環境)によるところが大きい、との批判が絶えず、依然として結論めいたものは出ていないようだ(結論が出たら学問としてやることがなくなってしまうのではないか)。
この3か月前まで35年間分の環境を共有する2つの個体は、これからは変わっていくかもしれないが、現時点ではほとんど同じはず。
陸上の中長距離では一卵性双生児が共に活躍することが稀ではない。かつての宗茂・宗猛兄弟、最近では村山謙太・紘太兄弟や服部勇馬・弾馬兄弟はいずれもトップランナーだ。
洸一はランニングをずっとやっているので、彼ら双子が共に切磋琢磨しアスリートとして成長できた要因のうち、双子であることはとても大きいと思っている。
たとえ性格は違っても、弟が、あるいは兄があれだけがんばれるなら自分にできないことはないはず、という常に少し先の目標がそこにあり、限界を突破し続けることができたのではないかと。
そして、お互いの弱みも客観的に見えるし、それを自分に照らして考えるという、どの分野でも自己の成長に必要不可欠な、「自己の相対化」が他の人々よりやり易いことは確かだ。
ランニングだけでなく、人間として、洸一は陽一とそんな関係になりたい、それはミッションに参加することを承諾する前から憧れていたことでもあり、陽一と共に暮らすようになってますますその思いを強くしている。
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