第3話 対話

もう一人の自分の名は陽一。


洸一が付けたわけではなく、プロジェクトで決めたものだ。


洸一と陽一は一卵性双生児という設定になっている。


実際には一卵性双生児以上に同一性が高いのだが、実験とは言え実社会ではそういう設定にするのが自然だから。


「陽一、ランニングに出かけないか」


「うん。雨もやんだし暑くなる前に走ろう」


おそろい、といっても洸一のランニングウェアとシューズを使っているだけなのだが、Adidasで統一しているのでおそろい感が出ている。


洸一はもともと会社近くの独身寮に住んでいたのだが、ミッション開始に伴って、練馬区の江古田に引っ越した。


独身寮住まいとは言え、10年以上も暮らしているので近所の人の目もあるし、なにより陽一の存在は会社の中でもごく一部の人間しか知らないし、「お前兄弟なんかいたのか」と同僚や先輩に詰められたら都合が悪い。


江古田は池袋に近いと言え閑静な住宅地が広がり、学校も多い文教地区で、洸一がずっと続けているランニングにはいい環境だ。


「陽一、シューズどう?違和感ない?」


あまり話すネタもないが、そうはいっても対面初日の当惑を紛らせるべく、勇気を出して話しかけてみる。


「うん。ぴったりだよ。厚底過ぎないのがいいね」


そりゃそうだろう。何しろ自分と何から何まで同じなのだし、かれこれ500㎞は履き慣らしたシューズなのだから。


しかし一つ会話が成立したことで、洸一の気分はウソのように晴れた。


そう。何から何まで同じ。身体的にだけではなく、人格も記憶も。

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