第3話浮かれとやつあたりに後悔

帰宅して、夕飯を食べ終えた私は自室に籠り、ベッドに飛び込んでクッションを掴み顔を埋めた。


うぅぅっ......っと低くこもった唸り声が自室に拡散していく。

横たわった身体を左右にごろごろ転がり、足を目一杯にバタつかせ、悶える私。


脳内は妄想の水崎の姿で満たされていた。彼女に恋心を抱き始めた頃の彼女の顔やスタイルといったことから現在いまのクールに装っている彼女の魅力が脳内を支配している。


同類であれど、女子であればみさかいなく恋愛感情を抱くのだろうか?

それとも、女子であっても彼女に対しての恋愛感情なのだろうか?

私には彼女が抱く恋心がどこを向いているのかは不鮮明で謎だ。


ショートカットのあの娘が好きなのか、顔立ちが好きなタイプに当てはまっただけなのか?それとも──。


ネガティブな思考に陥りそうになったタイミングで扉が開け放たれ、姉の呆れた声がして、顔を埋めていたクッションを姉へと投げた。

「風呂が沸いっ、はぁ~っ。またおかしな妄想して暴れて──ってぇ、何すんのよっあんたっ!」

「おかしなって言うなっバカねぇっ!暴れてもないっつぅのっ!」

「バカはどっちだ、バカはっ!あんたでしょうがっバカなのはっ!ほんとっあんたってヤツはっ──」

「うっさいっ!風呂でしょ、入るってぇ~のっバカねぇっ!」

言い返してきた姉にキレながら大股で彼女に近付き、自室から出て浴室に向かおうと通り抜けようとした私。

「何であんたがキレてんのよっ!こっちがキレるとこでしょうがっ!ちょっ待ちぃっ──」

鼻息を荒くし無視して、彼女の前を通り過ぎる直前に手首を掴まれ、声を荒らげ手を振り払った。

「っ!しつこいってぇのっ!」

「......っ。──たって......」

手を振り払って、浴室へと歩きだした私の背後で姉の声が切なさのようなやりきれなさのような感情を含んでいるように聞こえた。

階下から母親の「喧嘩はだめよぅー」と普段の変わらない調子の声が聞こえてきた。


浴槽に浸かりながら姉に思わず吐いた暴言について反省した。


──もう、ほんとっ私ってバカだなぁ......最悪だよ、ほんとさぁ......


姉に当たり散らして、嫌になる......こんな私が。


口をきかないよな、あんな酷いこと吐いたし。もう、ほんと最悪。




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