6話 歯車が動き出す(3)


 ────時は数秒前に遡る。


「あったあった。これが無いと俺は生きていけないからな」


 久志ひさしは階段に落としてしまった自分の財布を拾い上げて安堵の息を付く。

 念の為、中身のお金や個人情報系の物が取られてないかを確認するべく財布を開き名刺やらを確認する。

 一通り確認すると久志はもう一度安堵の息を漏らしたのでどうやら何も取られていない様であった。

 そして駅のホームに戻ろうとした瞬間────


「久志くん!!!」


 小さいが、確かに自身の名前を呼ぶ声がホームに木霊こだました。

 久志はすぐにその声が先程まで共に行動をしていた三春のものだと気付き、何をそんなに騒ぎ立てる事があるのだろうと思いながら階段を再度降り始めた。

 久志は声が木霊する直前に地下鉄が到着する音とその前の予告アナウンスを聞いていた為、きっと三春は到着したから早くしてくれという事で声を上げたのだと思い込んだ。


 ────なんとなく内気な奴なのにこんな所で、しかもそんな大した理由でも無いのに大声出すなんてよくわかんない奴だな。


 久志は全く見当外れの事を思いながら悠々と階段を降りてホームに足を踏み入れる。

 しかしそこには美しい女性に手を引かれて電車内に引き込まれた三春の姿が一瞬だけ映ったでは無いか。


 ────……はい?


 予想など出来るはずもない事態に思わず久志は困惑顔になる。

 そうこうしているうちに扉は閉まり、その扉に向けて何やら罵詈雑言を浴びせているよくわからない連中までいる。

 その連中は全員右腕に青い鳥の刺青を入れておりすぐに久志は『リバース』のメンバーという事を理解したが同時に疑問が生まれる。


 ────なんでこの短時間で三春は美少女に連れて行かれた挙句に『リバース』に狙われることになってるんだ?


 意味のわからない状況を必死に整理しているうちに地下鉄は速度を上げつつ、久志の目の前を横切った。

 地下鉄の窓には逃げ出そうと窓に張り付く三春の姿が一瞬だけ見えた気がする。


 ────本当に何してるんだ?


 単純な疑問が頭の中に止めどなく巡り巡り巡る────そして久志は顔を少し歪ませて過ぎていく地下鉄を見つめる。


 ────これは、面白くなりそうだな!


 この街に常人など存在しない。

 それは久志にも当てはまる理論である。彼はハッキリ言って常人ではない。

 面白い事があれば後先考えずに飛び付く頭がおかしい側の人間なのだから。


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