4話 歯車が動き出す(1)
────三春と久志が改札を通り抜けた頃。
すすきの駅をただひたすらに長髪を棚引かせた少女は走る。
そんな少女の背後には、常人ならば目を疑う様な光景が広がっていた。
少女の事を良い歳をした大人約二十人が、息を切らしながら追いかけているのだ。さらに言えばその中には駅員すら混ざっている。
すすきの駅には絶賛異様な光景が展開中なのである。
壁際でその光景を見る人々は、駅員も追いかけていると言う事もあり、少女が何か良からぬ事をしたのでは無いかと静かにスマホを取り出し警察に連絡を入れた。
また、ある人は警察に通報した反対側の壁に位置しており、その駅員や少女を追う大人達の腕に青色の鳥の刺青が入っている事を確認し、これは少女が危険に晒されているかもしれないとこちらも警察に通報し、後は他人任せと言う形でその光景を眺めていた。
地下を巡回していた警官が少女とその後ろの集団に危ないから止まれと一人で警棒片手に叫ぶが、少女は華麗に横を通り越し、優しい風が警官の頬を撫でたかと思えば、次の瞬間には大人達の優しさのかけらもない物理的な攻撃が警官を襲い、その場に警官は無様に倒れ伏した。
その周りを人々が囲んでスマホで写真を撮っている。
警官は心中で「この街の住民はつくづく人でなしの集まりだ」と愚痴を溢しながら無線を繋いだ。
「すすきの駅にて例の組織……『リバース』が暴れています。進行方向は大通駅!誰か対処して下さい!」
無線を切った後に警官の一人は怒気を含んだ声を駅内に轟かせた────
「この街の住民には銃の使用ぐらい許可してもいいと思うんですけど!!!」
× ×
────あぁ!もうしつこい!
少女は走る、走る走る、走る走る走る────
複数の大人達を巻く為に地下に点在する本屋、飲食店、文具屋、よくわからない脱毛の広告、服屋、大手カフェメーカー……全てを無視して大通駅とその足を向かわせる。
勿論後ろには『リバース』に所属している大人達がセットである。
結構なスピードで飛ばしている筈なのだが、律儀に五十代程に見えるおじさんも息を切らしながら着いてきている。
ここまで来ると一周回って尊敬してしまう事もあるかと言われればそんな感情は微塵も無く、少女は時々後ろを振り返っては全員を睨み付けている。
呼吸が乱れ、汗によって髪が乱れ、せっかくの美しい髪が所々跳ねている。
────何処まで追ってくるの!
その時、少女の頭の中に一つの案が思い浮かんだ。
────ドンピシャのタイミングで地下鉄に乗り込めばあいつら綺麗に撒けるんじゃないの……?
斯くして、少女の足は急遽大通駅の地下へと向けられることとなった。
× ×
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