prologue - 街を操る者


 この街────『札幌』に今、日本全国の中で最も異端な存在が生まれようとしていた。

 それは実に単純な理由である。

 初の外国人市長が生まれようとしているのであった。


「ハルネさん、今日の書類まとめ終わりました。上がっても大丈夫ですか?」


「あぁ、構わないよ。お疲れ様」


 日本語は実に丁寧であり、外国人の訛りも感じられない。

 綺麗な言葉遣いであり、容姿も本人は自身の事をおじさんと呼んでいるが、そんな言葉は全くもって当て嵌まらない、眉目秀麗びもくしゅうれいという言葉が良く似合う美男子であった。見た目的にはまだまだ二十代前半にすら見える。

 そんな彼────ハルネは翌日に控えている市長就任会に向けて資料を作成している最中であった。


 部下達は時間も時間であり、ほとんどが帰宅しており、社内に残っている者は数少ない。

 そんな部下の一人であり、同じ外国人のプラトという強靭きょうじんな肉体が特徴的な男がハルネに近付いてきた。


「明日、ようやくニーナを探す一歩目を踏み出せるな」


「そうだね、でも通過点だ。気を抜かずにこの仕事も全うしていこう」


「明日といえばあれだ……すすきので不死者の魔術師の復活祭が行われるとかなんとか……」


「あぁ、『リバース』か。確かな前はライム・ノルウェーツだっけ」


 二人は今まさにすすきの駅の地下でリバース関係の抗争が起きていることなど知らずに、リバースの会話を始めた。


「不死者って事は、お前と同じ匂いがするけどな」


「どうだろうね。でも魔術師ってのは気になるかな。僕も


 ハルネは椅子からおもむろに立ち上がると、ブラインドカーテンの隙間からハルネ達がいるビルの下に爛々らんらんと輝く札幌の風景を見て、どこか含みを持つ様な笑みを浮かべて呟く。


「遅かれ早かれこの街は狂うんだ。イレギュラーは全て受け入れよう。『裏』に神秘が広がる魔境の街札幌────何が起こるか楽しみだね」


 ハルネの目はプラトから見ると、まるで遠くの未来を見つめているかの様にも見える。そんなハルネは、最後にプラトにも聞こえない程に小さな言葉を付け足して業務に戻る。


「ニーナの為ならこんな街────」


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