prologue - 不死者 ライム・ノルウェーツ


「うん。そろそろだね」


 街にある小さな工場後にて、緑色の髪が何より特徴的な青年がボソリと呟いた。

 名をライム・ノルウェーツと言い、今現在『リバース』という組織を操っているリーダーであった。

 そしてライム・ノルウェーツは噂通り、魔術師であり不死者であった。

 どんな傷を受けようとも、どんな病を身体に溜めようとも決して死に至る事は無く、軽い損傷ならば数秒あればすぐに元通りになってしまうのである。


 彼はそれを逆手に取り、数十年前メキシコにてある一つの組織を立ち上げた。

 名を『リバーシブル』と言い、その意味は当初組織に所属していたメンバーの数人しか知る事がなかった。

 しかしそのメンバーは数十年前に起きたとある抗争で全員命を落としてしまった。

 『リバーシブル』も実質的な崩壊となりライムは一時的とはいえ表の世界から姿を消したのだがそれはまた別の話である。


 そして紆余曲折うよきょくせつを得て2021年────組織は『リバース』という仮の名前で復活を遂げる事となる。

 ライムの周りには数人の男女が集まっており、その中には体に神秘を宿した魔術師も何人か居た。


 この世界における魔術とは希少価値が非常に高いものである。

 魔術を使える者は世界で数百人程度と言われており、出会えれば心底幸運と言えるだろう。

 魔術の上位の存在である魔法を使える者はさらに限られ、噂では実は存在しないと囁かれている程である。


 そんな世界に身を置くライムの周りには自然と似たもの同士が集まっていった。

 自称魔術師、本当の魔術師、自称不死者、自称神様の使いである占い師、自称云々……様々な人間が集まりライムの計画を見届けようとその後ろに付いていった。

 ライムは特段組織の団員など気に留めておらず自分の目的が果たせればそれでいいと考えている為、組織の九割の人間の名前は覚えていなかった。

 しかしそれでも人が付いてくるのは目に見えないカリスマ性が彼には備わっているのだろう。


 ライムは月明かりを受けながら立ち上がり、自身が気を許している組織でたった三人のメンバーに向けて命令を下した。


「明日に向けて今日の夜はより一層忙しくなる。『リバース』の名を知らしめる為に各々の人員を動かして派手にすすきので暴れよう」


 その命令に小さく頷いた三人はすぐさま周りで待機していた総勢三百は超えているであろう『リバース』のメンバーに命令を出す。


「さあ、各々『リバース』の計画遂行のために動け。何、不安に思う事はない。ここは魔の街札幌だ。俺達に殺されるということは名前すら持てない『モブ』に過ぎなかったということだ。思う存分暴れろ」


 ライムの声に一斉に『リバース』のメンバーは高らかと返事をし、辺りに図太い声を反響させた。

 そして最後にライムは誰にも聞こえない、小さな声である言葉を呟いた。


「この街を乗っ取り、あの魔術を発動することで────アイツらを潰す算段が完成する」


 彼らを中心に、すすきのが狂い始める────


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