第5話 日誌のようなもの(2ページ目)

2月14日

 本日は定休日です。

 営業時間:8:00~17:00

 定休日:毎週月曜日・日曜日

(シャッターは固く閉ざされている)


2月15日

 そっか、今日も売店休みなんだよな。漆山はシフト休みだし、柏木は研修で居ないし。つまんねぇの……。

 昼休み。売店の前で立ち尽くしていたら、急に電話が掛かってきた。着信画面に思わず笑みが零れる。

「うん、昼休み」

「…何言ってんだよ。君の弁当、今も思い出の味だから」

「へへ」

 鼻の下が伸びてる?仕方ないだろう、彼女からの電話なんだ。さて、弁当食べたら頑張るか。


「愛してるよ、あおい」



2月16日

「おはようございます」

「おはよっス!」

 久しぶりの出勤日。

 2日間お休みしてた分、頑張ろう。今日は雑誌の新刊入荷で忙しくなるから。

「……あれ、栗原さん」

「はい?」

「肌、綺麗になったっスね」

!?そ、そうかな…何時もと変わらないメイクだけど…。

「おい漆山、それセクハラって奴だぞ」

「柏木さっ」

 …彼と目があって、咄嗟に視線を逸らしてしまった。うん、そうだよ…これから毎日こうなることは分かってた……。やっぱり、恥ずかしい。



2月16日(晴)心の中は吹雪っス。

「……おはよう、ございます…柏木…さん」

 何処と無く(いや耳まで)栗原さんの顔が真っ赤なんだけど。なんなんスか今の間は。ははぁ、これは日曜日ナニかあったみたいだ。あぁ~ごちそうさまっ!チケットを譲った甲斐があるというものだ。

「栗原さん」

「ひゃいっ」

「…昼休み、また来るから」

 公然イチャイチャ罪で逮捕してくれ!



2月17日

 今日は朝から冷え込んでいる。

 そんな中、まもの病棟に入院している学者さんが、お弟子さんと買い物に来た。

「…リセよ。近くに」

「どうしました?」

「何もしてやれぬが…せめてもの礼だ」

 彼は雑貨棚にある、髪留めに手を伸ばす。車椅子から懸命に。

「先生、無理しないで」

 制止する弟子へ、彼はいいのだ、と笑った。それに意味があるのだと。

 会計をして2人を見送ると、店の外で柏木さんが待っていた。すれ違い、少し会話をして2人は会釈し病棟に帰って行く。

「お疲れ様」

「はい、お疲れ様です!お知り合い‥?」

「ああ、急患で入ったおっさんでな…今は見ての通りピンピンしてるだろ」

 そこで言葉を止め、柏木さんが少し目線を反らせる。その先は、あの雑貨棚だった。



2月18日

 昼休みの終わり頃。

久しぶりに柏木さんたちが3人で店に来た。…何だか柏木さんは少し、浮かない顔をしてる。2人は笑顔だけど。

「栗原さん」

呼んだのは漆山さん。週末に、みんなでお昼を食べに行くらしい。その中には楓とあおいの名前があった。

「栗原さんも、どうっスか?」

「私もですか?」

「ああ、トリプルデートってや」

 柳原さんの頬を柏木さんが片手で掴んで、柳原さんが口を尖らせる。思わず笑ってしまって、どうしようか考えた。

 …、トリプル…

「…もも、気にするな」

「い、一応言っておくけど…俺は止めたぞ…?」

もしかして、柏木くん…も?

「い…行きます!」

 彼が私をもも、って呼んでくれるのが、なんだかこそばゆい。


2月19日

 今日は金曜日。週末とあって廊下は慌ただしく、患者の付き添い看護師や、休み前でお見舞いに来る人達で賑やかだ。

「おねーさん」

「はぁい?」

「これください」

 声のした方を見下ろすと、小さい男の子(スライムだ!)ぴょこんと跳ねて雑貨棚からヘアリボンを取った。

「あら、大丈夫?」

「うん。柏木せんせいが、ちゃんと自分で取ってわたすのにイミがあるって」

「あら…」

 出てきた名前に思わず頬が緩む。えらいね、と彼の頭(の辺り?)を撫でた。小児病棟の子で、隣の部屋の女の子に渡すらしい。

「おねーさん、さ」

「うん」

「柏木せんせいがすきなの?」

「……ナイショ…!」

 まだ、この気持ちには蓋をしている。



2月20日

 今日は1日、朝からいい天気だ。

 今日は土曜日、明日は……。

「…って、ダメよ!集中しなきゃ」

 この間の飲み会よりも、もっと楽しくなればいいなぁ。

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