第154話  対聖教会⑥

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 国王執務室


外務省第五局(マルメディア情報部)から届けられた聖教会教皇アルミニウス6世に関する資料を読みながら、何か聖教会対策になるような事項はないかと文字を追っていた。


もっとも、内なる陛下に文字を『通訳』してもらいながら、なのだが。


アルミニウス6世。


本名ヤヌス・アレクサンデル・カザンスキ。


レヴィニア、ヴワディスワ県パンニ出身。


2歳時に父を亡くし、以後母と2人で極貧生活を送る。


親戚を頼って、4歳時にマルメディアへ移住。


衣食住の心配が無い、という理由で聖ゲオルギウス修道院付属の神学校幼稚舎へ入学。


これが長い寄宿生活の始まりだ。


幼稚舎卒業後は、ノイエンドルフ教会付属の神学校初等科へ入学。


神学校中等科在籍時に助祭の資格を得る。


———15歳で助祭の資格か。優秀な頭脳の持ち主だな———


陛下の評価だから、これは間違い筈だ。


神学校高等科卒業時に司祭補の資格を取得して、ノイエンドルフ教会の司祭補となる。


助祭を務めながら聖アヴィリオス大学で神学を学び、卒業後に司祭の資格を得て、そのままノイエンドルフ教会の司祭となる。


———異例の早さでの司祭叙階だな———


以後、リューゲン司教、ゼート大司教を経て、49歳という若さで助祭枢機卿となる。


報告書には、信者からの集金に長ける、とあるから、聖教会上部へ多額の上納金をしていたのだろう。


あれだ、暴力団の二次団体の末端組員だったが稼ぎが良く、トントン拍子に出世して自らの三次団体を起こして組長に就任。


覚えがめでたく、本家の親分と盃を交わして舎弟となったって感じか。


当時の教皇クリストファロス9世からの評価も高く、引き立てられて司祭補枢機卿から一気に司教枢機卿へ叙階され側近となる。


ホノリウス4世、アレクサンデル11世、フェリクス3世の側近として使え、ステファノス5世死去後の教皇選出選挙コンクラーヴェで新教皇に選出、アルミニウス6世を名乗る。


太閤豊臣秀吉といい勝負の立身出世ぶりだわ。


本人の才能もあったが、努力や苦労を評価されて引き立てられたのだろうが、裏では相当に悪辣なことをやっていた筈だ。


その悪辣なことが何か…


報告書には『幼少時の極貧生活の反動か、枢機卿叙階以後は奢侈に耽る傾向がある』とある。


この辺りに何かありそうな気がするが、更なる調査が必要だろうな。


薄ぼんやりと考えていたら、執務室の電話が鳴った。


応対していた秘書侍従が「陛下、外相からです」と告げたので、執務机にある電話の受話器を取る。


「外相、何か問題かな?」


「はい。ニアルカスで聖教会が不法占有している土地について、聖教会からの回答を得ました」


「芳しく無い結果なのだろうな」


「聖教会からの使者は『ニアルカスの教皇庁一帯の土地は神が聖教会に与えた物であって、マルメディア当局が関知する必要性を認めない』と言っておりました」


———ふざけているのか!———


あ〜、これは喧嘩を売ってきてますね。売られた喧嘩は、買うしかない。


———勝てるのか?———


何としても勝つしかないでしょう。


舐めくさりやがって!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る