第153話  対聖教会⑤

マルメディア ニアルカス 聖教会教皇庁国務省外務局 外務評議会




「このような愚かな事をやっていたのか…」


外務局局長ニルソン枢機卿が呻いた。


「寄進状を偽造した挙句、無断でマルメディアの国有地を占有し、利用していたとは…」


「どう考えても、非は我々にあります。早急にマルメディアへ謝罪し、今後の土地利用について話し合いを持たなければなりません」


ウエストウッド枢機卿が進言する。


「教皇聖下が何と仰るか。あのお方が世俗の王へ頼み事をして、それを良しとする度量があるとは思えないのだが」


「度量がどうこうの問題ではありません。聖教会最大の危機です。大元の寄進状…いえ、無料貸借契約書とでも言いますか、には、マルメディアは聖教会へニアルカスからの退去を要求できる、とあります」


「そうなった場合、我々に打つ手は無い。信徒も納得しないでしょう。この醜聞スキャンダルは内々に解決するしかありませんが…」


タグリアーニ枢機卿が言葉を濁す。


「そもそも論だが、何故マルメディアは、オットー3世の寄進状が偽造であると気付いたのだ?我々、聖教会へ不信感を抱いて色々と調査していたのか?」


ニルソンが疑問を口にした。


「そこです。銀行への急な査察といい、恫喝(スラップ)訴訟といい、聖教会の金銭の流れを洗っていたとしか思えません」


オリベイラ枢機卿が言う。


「おそらく本丸は、『信徒の為の銀行』の融資先なのではありませんか?」


「銀行は、カルシュタインやレヴィニアの公債を投資先として購入している。それに関して、過去にマルメディアが抗議してきた事は無かった」


バザン枢機卿が聖座財産管理局の立場から、そう発言する。


「…では、問題の発端は何なのだ?」


ニルソンの問いに


「まさか、とは思うのですが、銀行が秘密裡にカルシュタインかレヴィニアに融資、資金援助をしているのではありませんか?」


と、バラッカ枢機卿が返した。


「銀行の帳簿には記載されていません。誰が、どのような資格で金融支援を行っているのでしょうか。まさか、教皇猊下の命で銀行幹部が秘密裡に動いているとすると、これは大変な問題になります」


バザンが会議参加者全員に警告する。


「今上聖下は、世俗のまつりごとに関与し過ぎる。各国の勢力均衡を狙って、特定の国家が強大にならないようにするおつもりなのでしょうか」


「それは危険過ぎる。各国の勢力均衡を聖教会が狙い、それを行う政策を取るなど、ある意味、戦争を仕掛けているのと変わらない行為だ。聖俗分離令にも反している」


ニルソンは、それが事実なら事態を収拾するのに大変なことになる、と危惧している。


「銀行幹部を招致して、簿外融資の有無を確認する事が必要では?」


アゴスティーニ枢機卿が提案する。


「意味が無い。そのような誣告に対し、断固抗議いたします、で終了だ」


ニルソンがそう発すると、評議会参加者全員が黙り込んだ。


「仮に秘密裡にマルメディアの敵国へ資金援助を行っているとすれば、財務評議会が全く関与していない、とは思えない。あそこは親教皇派の巣窟だからな」


「我々外務評議会は、今回の件では無力です。教皇猊下のなされようも酷いが、取り巻きの連中も輪をかけて酷い」


ロドリゴ枢機卿が溜め息をついた。


「…打つ手が無い、という訳ではないのですが、これは倫理的にどうか、という解決策があります」


タグリアーニの話に


「聞こうではないか」


とバラッカが応じた。


「要するに、根本は世俗界に介入したがるアルミニウス6世聖下が原因なのです」


タグリアーニが淡々と説明した。


「ですから、猊下には聖教会から退場して頂く他、ありません」


「あの聖下が自ら退位する筈は無い、と私は思います。あり得ない」


バザンがタグリアーニの意見に異を唱えた。


「そこで、ウィトゲンシュタイン首席枢機卿の出番です。アルミニウス6世猊下が常軌を逸してしまった為、使徒座空位と見なして特別教皇選挙スペキアーレ・コンクラーヴェを開催して頂く」


「そっそれは!」


オリベイラは、思わず叫んでいた。


「両皇併立になりますが、聖教会ニアルカスを救うには、これしかないかと…」


タグリアーニの言葉で、会議室内の空気の温度が一気に下がったようになった。


















































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