第143話  解消④

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 国王執務室


しかし、こんな嫌がらせを考えたとは、外務省第五局って詐欺師とイイ勝負だな。


大蔵省の金融検査と称して、堂々と聖教会の『信徒の為の銀行』へ乗り込むとか、まあ、何とかと紙一重の発想だな。


当然、聖教会側は「聖教会領はか独立した国家であるから、他国であるマルメディア大蔵省の検査監査を受ける謂れはない」と拒否。


予定通りに「それならニアルカス市中の『信徒の為の銀行』支店へ金融検査を実施いたします」となった訳だ。


急遽、金融検査を受ける事態になった『信徒の為の銀行』ニアルカス支店は、恐慌を来たした。


マルメディア側が予想していたように、複数の書類の不備が発見され、予定通りに「業務上、不適切な取り扱いがあった」として営業停止3日間の処分が下された。


検査初日に早々に書類の不備を発見したあとは、全力でニアルカス市内での聖教会の不動産運用の金銭の流れを調査。


…だが、『聖教会が不正を行って、不動産を取得して蓄財している』という決定的な証拠が見つからない。


簡単に見つかるような『不正経理』を聖教会がしている筈がないのは分かってはいたが、中々強かな連中だ。


だが、上がってきた中間報告には、色々と興味深い内容が記されていた。


『信徒の為の銀行』ニアルカス支店に口座のある不動産会社『オルデンブリュッケン土地信託』へ大量に毎月定期的に多額の振込がなされている。


この『オルデンブリュッケン土地信託』は、聖教会が100%株を持っている言わば身内の会社だ。


だが、中間報告には…


はぁ?固定資産税を納めていない?


———どういうことだ?所有者が別にいて、単に土地や建物の管理を任されているだけなのか?———


そうであるならば、この『オルデンブリュッケン土地信託』から所有者へ土地や建物の賃貸収入が支払われている筈ですが、その形跡が無い。


———それは、つまり…———


オルデンブリュッケン土地信託は、不法に国有地を占有して勝手に建物を建て、その利益を株主配当として聖教会へ流している…


———参ったな。基本、我が国は聖俗分離で、政府も王室も聖教会のやっている事には無関心だった結果が、この有様とは———


「5年前の税務調査でも、怪しい金銭の動きがあり、税務当局でも注視しておりましたが…」


ニアルカス税務署署長ツヴァイクが語尾を濁した。


「何故、放置しておいたのだ?」


「当時の国王陛下であったカール公から、直々に調査中止を命ぜられた、と記録されております」


ツヴァイクが着任する前の話だから、ここで詰問しても得られるものは無い。


「御苦労、引き続き調査に励んでくれたまえ」


そう言って、ツヴァイクを国王執務室から送り出した。


ううむ、舐め腐りやガッて!


聖教会と友好的な関係にある、と思っていたら、一方的に搾取される立場に置かれていたとは…


———土地登記簿を調査して、土地の所有権が誰にあるのかを明白にしよう———


そうですね、まずはそこからだが…今はニアルカス支店の調査に傾注していて人手が不足しています。来週以後、になりますか。


———とにかく、聖教会の不正の証拠を押さえて、『信徒の為の銀行』からレヴィニアへの金融支援を止めさせるのが目的だ。聖教会と対立するのは得策ではないが、こちらにも我慢の限界があることを示さないと、理解しないのかもしれないな———


前国王も何を考えて調査の中止を命じたのか、さっぱり分からん。


何から手を付けるべきか…やるべきことが多過ぎる。


———不動産の所有権を調査だ。国有資産払下台帳を遡って調査すれば、本当に国有地の売却があったのかどうか、判明する———


…筈だった。


1週間後に判明したのは、国有資産払下台帳には土地売却の記録が残されていないが、土地登記簿上は不動産はオルデンブリュッケン土地信託の所有となっていた。


———馬鹿な!———


あ〜、これは登記簿の差し替えをやられましたね。


———差し替え?———


公文書偽造、ですね。マルメディアでは罪が重い、と、聞きましたが。


———重罪だ。そんなことは許されない行為だ———


まず。登記簿上の所有権がオルデンブリュッケン土地信託にあるので、過去に遡って固定資産税の請求をしましょう。手始めには丁度良いでしょう。


———手始め?———


ま、後は所有権確認の訴訟を起こす。


建物1棟ではなく、集合住宅なら部屋数分の裁判を起こします。1棟で100部屋あれば、100件の裁判となりますから、当然、あちらは対応出来ずに裁判には出席できないでしょうね。被告人欠席のまま、こちらの主張が通って、所有権はマルメディア政府というか王室になるでしょう。


スラップ訴訟で嫌がらせ、いや、目にモノ見せてやる。







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