第141話  解消②

マルメディア 首都ノイスブルク 王宮 正殿春秋の間


「ヴァレーゼ国王フランチェスコ7世陛下、御入室」


侍従の声がすると、春秋の間に義父であるフランチェスコ7世が姿を見せた。


公式の引見だから、あまりにも親しい口調で話しかけたりすると、後々外交問題になりかねない。


最近、やたらと転ぶ事が多くなってきたので、公式の場では車椅子を使用している。


身体の変調が徐々に増しているようだ。


今回の引見も車椅子に座ったままだ。


「陛下のマルメディアへのご訪問、歓迎いたします。ヴァレーゼの王族の方々は、つつがなくお過ごしでしょうか?」


「ハインリッヒ陛下の御威光をもちまして、皆、健やかに過ごしております」


「この度の訪問が、更なる両国の友好発展に繋がる事を祈念しております」


祈念と言うか、疑念が募るのだが。


「最近は、自国さえ良ければいい、と言う一国主義、保護主義が国際社会を跋扈しております」


———ほう、義父上のありがたいお言葉でも聞いておくか———


「力を誇示して我益のみ追求する覇権国家も増えておりますが、その中で、国際的慣例や条約を遵守し平和的な枠組みを維持しようとするマルメディアとの友好を深める事は、我が国だけでは無く、両国に取って利益となる事でしょう」


いや、全くその通り。


すると、ヴァレーゼはマルメディアやレヴィニア相手に一戦交える気は無い、ということか?


———あくまでも義父上国王には、そのつもりは無い、というだけだ。ヴァレーゼ政府がどう判断するかは、また別だ———


ま、引見の場で込み入った話をされても困るし、そろそろ終わりにするか…


侍従治フォン・エーベルシュタインへ合図を送る。


合図を受けて、フォン・エーベルシュタインは侍従へ目配せする。


「フランチェスコ7世陛下、御退出」


公式の引見が終了する。


この後は、国王執務室での相当面倒な話し合いが待っている。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「さて、訪問の要件を伺いましょうか」


国王執務室に移動して、本音の応酬開始だ。


「王宮に来る前なんじゃがぁ、大使館へ寄ってきたんじゃ。潜行おしのびちうことで、驚いとったわい」


このシエタベッキア訛りが曲者だ。


「訪問の要件を尋ねているのです」


「まぁ、ちょっと待ちんさい。大使館別館で寝泊まりしちょるソフィアに会いに行ったんよ。ほいたらの、あの浮気相手のデ・ロウレンティスと一戦交えておったわ。現場を押さえたけぇ、腐れ伯爵もお終いよ」


「ほう。で?」


「デ・ロウレンティスは奪爵の上、闕所にしてやるつもりよ。ソフィアは、どこか離島の修道院にでもブチ込んじゃるわ」


「…つまり、我が国との婚姻関係を解消する、ということですね?」


「しゃあないわ。他に打つ手が無いんじゃ」


———不味いな、完全にヴァレーゼ王室との縁が切れるか———


レヴィニアのクリスティーネ殿下との婚約も解消の方向ですし、このままだとマルメディアは孤立してしまいますね。拙いな、これは…


「こんなは、何かええ考えがあるんか?」


参った。


———ソフィアと離婚直後にヴァレーゼから嫁娶する訳にはいかないぞ———


王弟で王太子のフリードリヒも、婚約解消直後にヴァレーゼの王室からの嫁娶は無理だし、王妹テレーザは鉄道事故で負った怪我で未だ入院中だ。


———あとは従兄弟のウィリー…ヴィルヘルムが王族の中では王位継承順が高いが———


見切り発車ですが、ヴィルヘルム公の相手に相応しい王族がヴァレーゼ側にいると良いのですが…


「義父上、王従兄弟のヴィルヘルム公が独身なのですが、ヴァレーゼの王族で何方か相応しい相手はいませんか?」


「ほうじゃの…」


禿頭を傾げて考え始める、フランチェスコ7世。


「……いない訳じゃあないんじゃが、訳ありなんじゃ」


「どのような訳ありなのです?」


「ワシの従兄弟、アドルフォの長女アドリアーナなんじゃが、虹彩異色症オッドアイでの」


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