第107話  使節派遣

マルメディア ノイスブルク 王宮 国王執務室


「・・・そうか、亡くなったか」


——あの悪徳皇帝も、やっと逝ったか——


セヴェルスラビア皇帝、アレクサンドル5世が崩御したと、外務省から事務次官のシュリーマンが報告に来宮してきた。


「大喪の儀の参列ですが、いかがなさいますか?」


「そうだな・・・」


——両国間の関係を考慮すると在セヴェルスラビア大使の参列でも十分だが、まぁこの場合は使節を派遣したという形が必要だからな。私が出向くまでもないが、閣僚の誰かを・・・外務大臣が妥当な線か——


「日程に問題がないのであれば、外務大臣を派遣したいのだが・・・」


「承りました。外務大臣派遣で日程の調整を行います」


こちらの回答を予想していたのか、シュリーマンが即座に応じた。


「今後の両国間の関係について、外務省の見解は?」


「先月の月例報告と変わるところはありません。彼の国で内戦が起ころうが、我が国は不関。この方針ですが・・・」


「うむ。情勢の変化があった際は、逐次報告をお願いしたい」


「御意」


「シュリーマン外務事務次官、退出」


同席していた侍従が声を上げて、報告が終わった。


「陛下、失ったノイス川以南の領土を回復する好機ですが」


外務事務次官が退出した後に、摂政フランツ公が言う。


「静観するということですか?」


「陸軍省からの報告通り、現状で動かせる兵力が約20個師団。ノイス川以南の領土返還があったとしても、セヴェルスラビアに踏み込み戦闘を行うには、兵力不足だ」


——せめて1年後なら、最低でも40個師団を動かせるのだが——


陛下、兵力は集中運用しなければなりません。

逐次投入は愚策です。


「・・・そうですか。では、情勢の変化待ちですな」


「内戦が必ずしも起こるという訳でもあるまい。まして、外国勢力に介入を要請するなど、下の下の政策だ」


「何と言いますか、我が国だけではなく、周囲の国が倒れかかっているセヴェルスラビアを狙っている筈ですし、喰われないように彼の国も必死に外交を行なっていることでしょう。本当に静観でよろしいのですか?」


「・・・止む無し、だ」


マルメディアとしては、現状で打つ手が無い。

レヴィニアと共同で内戦へ介入するのであれば話は別だが、レヴィニアも軍を動かす余裕はないだろう。


「弔問外交が行われて、何か変化が起こるかどうか。それを見極めてから対策を取るしかない」


政策立案を放棄した訳ではなく、現状で予想される事態への対応に変化はない、ということだ。













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