第104話 難題は不意に②
軍務局局長が執務室を退出すると、入れ替わりに陸軍大臣フォン・クライストが現れた。
「本職をお召しとのことで、参内いたしました」
「急に呼び出してすまない。早速だが、親補職の件で話し合いを持ちたいと思ってね」
「現在空位となっている、侍従武官長の親任でしょうか?」
「・・・それもあるが、陸軍の親補職は、大臣、参謀総長、教育総監、軍司令官、師団長、侍従武官長で間違いないね?」
「軍事参議官もです」
陸軍大臣が補足した。
「・・・そうだった。現在、陸軍師団数は、定数割れの師団ばかりだが、70を超えている。更に数は増える予定だ。この人数の師団長の親任式を人事異動の際に行うのは、大変な労力と時間を要する」
「師団長を親補職から外すと・・・」
「師団長は中将相当職だ。中将が師団長の任を解かれる時、全員が軍事参議官となって格落ちしないような人事となっている。それも、おかしいではないか」
「・・・」
「もう一つ。戦時に軍司令官が、失態を演じた麾下の師団長を解任できない。親補職だから、解任出来るのは国王だけだ。一旦、戦地を離れて王宮で師団長を罷免しなければならない。時間の無駄である。大臣は、このような事態を想起しているのかね?」
陸軍親補職の既得権に斬り込んだが、さて、どうなるか・・・
「戦地にて上位の軍団や方面軍からの命令に反する行動を取る師団長はいないと、本職は確信しております。また、陛下より師団長任命の辞令を手交して頂くことは何より栄誉であり、各員一層の忠勤の原動力となっております。師団長を親補職から外すのは、得策ではないと愚考いたします」
う〜ん、やっぱり無理か。
「軍事参議官への異動については?」
「これについては、過怠なく師団長を務め上げたのに親補職を外されるという格落ち人事は、正当性を欠くものであります。止む無しかと」
これもダメか。
軍の士気を下げたり、忠誠心を削ぐような改革は、さすがに無理か。
「・・・そうだな。大臣の意見は尤もだ」
「それでは、空位の侍従武官長の人事ですが、慣例」
そこで執務室の扉を叩く音がした。
「誰か?」
会談に同席していた侍従が尋ねる。
「外務大臣ツー・シェーンハウゼン侯爵が、火急の用件にて陛下に面会をお求めです」
扉の外から声がした。
一瞬、陸軍大臣と視線が合う。
「火急、ですと?」
「通せ」
外務大臣が同伴者を連れて、入室してきた。
「おお、陸相閣下がいたとは、これは好都合」
外務大臣が言った。
何か嫌な予感がしてきた。
「外相、何かあったのかな?」
「こちらの者が、陛下へお渡しする親書を持参しております」
外相が同伴者に発言を促した。
「初めて御尊顔を拝見いたします。セヴェルスラビアの公爵、フョードル・アレクサンドロヴィチと申します」
——フョードルだと?セヴェルスラビアの皇帝甥が、一体・・・——
いきなり大物が現れた。
「・・・してフョードル公、何用かな?」
「
既に外務大臣へ渡してあった親書が、侍従を通して渡される。
セヴェルスラビアの皇帝一族しか使用出来ない、火を噴く獅子の紋章で封蝋された封筒だ。
開封して、中の書面を読む。
いや、翻訳してもらう。
——・・・軍事的な支援を求める、とあるな——
それだけですか?
——ああ、季節の挨拶やら私の暗殺未遂のお見舞いやら他にも色々と書いてあるが、要約すると、そういうことだ——
「フョードル公、親書の内容は存じているのかね?」
「・・・あまりにも身勝手なお願いであることは、理解しております」
「そう、身勝手だ。先年の戦争で我が国の領土を劫掠し、その上で我が国の兵士に血を流させる軍事支援をしてくれとは、貴国には名誉の概念が無い代わりに恥の概念も無いと思える」
さて、少し挑発して頭に血を昇らせて、本音を引き出してやるか。
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