第103話 難題は不意に①
マルメディア王宮 国王執務室
「それはつまり、基地が必要という理解で間違っていないのかなか?」
陸軍軍務局局長モリッツに聞き返した。
「当初の計画通りに、新兵訓練学校が開設されます。7月からの4カ月間の訓練が終了すると、訓練修了した新兵を既存の師団に配属し、師団を戦時編成に改変するか、新規師団を編成し、そこへ配属するか、の問題が生じます」
淡々とモリッツが説明を続ける。
「将来的には、戦時編成の4個連隊で1個師団。これを90個師団、整備する予定となっております。新規師団の編成に伴い、それらの師団本部の建物が新規必要となります」
ああ、そうだったわ。
訓練が終わった新兵の配属先を考えていなかった。
「後々を考えますと、ほぼ新兵で構成された師団を編成するよりは、既存の師団を分割し定数未満の師団を複数編成、将来的に訓練を終えた新兵で欠員を補充する方向が無理なく軍備増強できる、と考えますが」
「…そうだな、確かに局長の言う通りだ。新しい基地は必要になるな」
「お言葉ですが、基地、と言うのか、陸軍は本来、戦場に在るものです。軍それ自体で完結している存在なので、根幹地の基地ではなく、仮の場所に駐まっている場所という意味の駐屯地が正確な名称になります」
「ああ、駐屯地か。自衛隊もそうだな。米陸軍もBaseではなくCampだし」
——は?自衛隊?米陸軍?——
しまった!思わず、この世界には存在していない組織の名前を出してしまった。
「…は?自衛隊?キャンプ?ですか?」
「あ、いや、気にしないでくれたまえ。その駐屯地設営の為の土地と、師団本部の建物や兵舎が必要だ、ということだな?」
「その通りです。可能であるならば、近隣に演習場も設けて頂きたいのですが…」
「予算は出す。軍から駐屯地として適である、とする場所があるのならば、書類で報告してもらいたい」
「はい。実は選定は終了しております。軍としての希望は…」
軍務局長が地図とリストを出して説明してきた。
分からん。
地理に不案内な私が説明を受けても、どうにも判断のしようがない。
陛下に判断して頂くしかない。
——…場所には問題は無さそうだ。あとは、用地買収と立ち退きか——
「以上の10箇所の大規模な駐屯地に各2個師団、計20個師団を駐屯させる予定です」
「うむ、予算をつける。駐屯地開設へ向けて、取り組んでくれたまえ」
駐屯地問題が一応の解決を見たので、軍で性能評価中の装備品の話をする。
「試製短機関銃は。回転数を上げても命中精度に問題はなく、このまま正式採用の見込みです」
試製短機関銃は米軍のM3A1『グリースガン』のパクリだが、.45ACP弾よりも小口径弾を使用するので、フルオート時の発射速度を上げても反動に問題はなかったようだ。
「新型自動式拳銃は、何よりも装弾数が多いのが高い評価を受けています。機構も単純で、信頼性も高い」
そりゃそうだろう。
コルトM1911A1『ガヴァメント』を9mmパラに酷似した弾丸の仕様にして、ダブルカアラム化で13+1発撃てるようにしてある。
サイドアームとしては、十分過ぎる火力だ。
「軽機関銃ですが、こちらは加熱した銃身を交換して射撃を続行できる点が、高い評価を得ています。ただ、反動が大きい。あと、発射速度が早すぎて弾薬の消費量が増えて補給が追いつかないのではないか、と危惧されてます」
これはMG42だ。
排莢は普通に右側になるようにしてある。
発射速度が早く、射手が難聴になりそうな独特の発射音をする、通称『電動ノコギリ』だ。
ヒトラーゼーゲではなく、ハインリッヒゼーゲと呼ばれるようになるだろう。
補給部隊にはトラックを導入したし、補給は心配しないでもいい。
「迫撃砲、こちらは分解して歩兵でも運搬可能ですが、歩兵が運搬できなくてもいいので、射程が長くて威力のある大口径の迫撃砲は作れないか、と声が出ております。併せて、採用済みの迫撃砲に車輪を装着して、
早速、重迫の催促が来たか。
拡大コピーでは砲身が保だないだろうから、また新規開発になるか。
タイヤを装着しての移動を可能にして、機動性を高めたい。
「試製の重機関銃が、先日兵器工廠より到着しました。試射を行った者が『
いや、ブローニングM2はオーバースペックじゃないし。
いずれ航空機に搭載し、地上でM45機関銃架の4連装対空機銃として活用する予定だ。
トラックへ載せて、M16『ミートチョッパー』ガントラックver.一丁上り、としようか。
他にも鉄鋼、重工の各会社へ、88ミリ高射砲、105ミリ榴弾砲、155ミリ榴弾砲、155ミリ加農砲の試作を国王命令で行っている。
StG44フルコピーの新型自動小銃は、中間弾薬も含めて試作品が完成したと昨日報告があった。
軍の評価がどうなるか、楽しみだ。
敵より数的劣勢ではあっても、火力で撃ち負けないように軍を改革しなければならない。
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