第99話 国王会議②
「・・・長期計画通りに軍の増強を図り、経済の発展を促していく。人口を増やす為の諸政策も、引き続き実施する。他に短期的に取れる政策は、何かあるだろうか?」
誰か知恵を出して頂戴!
「・・・これは極論ですが、カルシュタインへの金融支援と引き換えに、東カリンハルの一部を返還し」
ツー・シェーンハウゼンが言いかけたが、
「否、である!敵国を利するような行為は、断じて取ってはならない!」
と陸軍大臣が吠えた。
まあ、そう考えるのは当然だ。
陛下の義父、ヴァレーゼ国王フランチェスコ7世なら「ケンカ相手に金ぇ渡す阿呆が、どこにおるっちゅうんじゃ、こんボケがあ!」と怒鳴るところだろう。
「政策の提言だ、陸軍大臣。検討するだけしてみようではないか」
宰相レーマンが言ったが、
「その返還される領土が再侵略されないという保証が無い以上、検討にすら値しない」
とにべも無い。
「そこが難点です。交渉相手が休戦協定の締結を拒否する国なので、泥棒に追い銭をして、ただ単に国費を浪費したとなりかねない。カルシュタインについては、このまま放置しておくのが最適だとは思いますが・・・」
外務大臣が言葉を濁した。
「・・・マルメディアが経済的発展を遂げ、軍拡も行なっている。一方、カルシュタインは不況で軍の削減を実施、装備も古く弾薬の備蓄も乏しい、給料も下げられて兵士の士気も低いという状況は、極めて危険です」
「それは、我が国には喜ばしい状況ではないか」
大蔵大臣フォン・ライニンゲンが疑問の声を上げる。
「向こうが苦境になれば、我々は優位に物事を進めていける。一体、何が問題になると言うのだ?」
「大蔵大臣閣下、偶発的ではなく戦争が起こる時は、主に二つの場合があります。一つ目は、当方の被害も少なく戦略目標を達成できる、確実に相手に勝てる、と判断できた場合。もう一つは、このままの状況が続けば確実に負ける。ならば、ここで一戦、決戦に打って出る、と相手が判断した場合です」
参謀総長が説明した。
「外務大臣閣下の御懸念は、この二つ目に当たります」
「・・・相手を追い込みすぎても駄目か」
誰かの呻き声がした。
「他に何か意見がある者は?」
「・・・」
宰相が発言を求めたが、室内は沈黙したままだ。
「・・・それでは陛下、お言葉を賜りたく存じます」
宰相に発言を促された。
何かカッコいい言葉を言いたいが、浮かんでこない。
「それでも軍備を増強し、人口を増やし、経済の発展を促さなければならない。引き続き、諸君の精勤に期待したい。私からは以上だ」
そう言って、会議を終了させた。
戦場に立った時には勝敗は既に決している、と言ったのは誰だった?
ナポレオンだっけ?
それとも織田信長だったか?
その状況を作ろうと必死に頑張っている最中に、戦場に引き摺り出されそうだ、畜生。
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