第81話  外務省セヴェルスラビア部

マルメディア 首都ノイスブルク 外務省



「そうなると、皇位後継者は?」

宰相レーマンが尋ねた。


「継承権第一位が、ミハイル公の長男、13歳のニコライ公。第二位が次男で10歳のアレクサンドル公。第三位は、皇帝の次男、38歳のアレクセイ公。この中から即位されるのでは?」


セヴェルスラビア部部長バッハマンが答えた。


「子供はともかく、アレクセイ公は凡庸というのが外務省の評価です」


「人物がいない、という認識で問題ないのか?」


「いいえ、皇帝甥のフョードル公。こちらはなかなかの人物ですが、皇位後継順が八位と低いのと、母君が平民の出なので・・・」


「ミハイル公爆殺の犯人の見当はついているのか?」


「ミハイル公には政敵が大勢いました。私権制限に反対する貴族、資本家。セヴェルスラビアの改革に反対する王族。帝国内の民族主義者。地下で結成されたらしい労働党。帝制廃止を訴える自由主義者。現在交戦中のナイメリア。まぁ、この辺りですか」


第五局情報局の判断は?」


外相ツー・シェーンハウゼンが発言した。


「犯行の声明が出されてません。特定の結社の犯行ならば『我々が実行した』と、その存在を誇示するでしょう。しかし、それが無い。改革に反対する、王族、貴族、資本家のいずれか、或いは全てが関与している可能性が高いと見ました」


第五局局長フォン・ヴァイゼンが説明する。


「身内に刺されたようなものです」


「ううむ・・・国の発展の為に議会開設は時期尚早とした皇太子が改革派で、議会開設を押しきった貴族会が守旧派か。何とも皮肉だな」


レーマンが溜め息をついた。


「しかし、戦時中に自国の皇太子を暗殺するとか、セヴェルスラビア貴族の頭の中は、一体どうなっているのだ?」


「まぁ、そのような貴族が多いので、ミハイル公も改革を急がれてたのでしょう。道半ば、と言うよりは一歩踏み出す前に倒れてしまいましたが」


と、フォン・ヴァイゼン。


「病床のピョートル4世は、完全な死に体と言えます。今後、ニコライ公が即位し皇太子妃ナターリア公が摂政に就く可能性が一番高いと、セヴェルスラビア部では判断しています」


バッハマンが述べた。


「改革路線継続ですが、それでは政体が保たないでしょう。政変、内戦の可能性があります」


「宰相、仮に内戦になった場合、我が国の介入は?」


ツー・シェーンハウゼンがレーマンに問うた。


「泥沼に足を踏み入れるようなものだ。介入は不可、だ。ただなぁ・・・」


「北戦争で失った、北部地域ですか?」


「ああ、北部地域を返還するので、当方の支援をされたし、となると、これは陛下の御聖断を仰ぐしかなくなる。あまりにも旨すぎる餌だ」


何度目かの溜め息を、レーマンがついた。


「他の想定は?」


「貴族に担がれて、アレクセイ公が即位。これだと、ナターリア公側が黙っていないでしょう」


ツー・シェーンハウゼンに促されて、バッハマンが応えた。


「こちらも内戦ですか。後は、軍が蜂起して混乱を収める・・・」


「やれやれ、東のレヴィニアとは不可侵条約を結んだが、政情不安定。北のセヴェルスラビアは内戦必至。西には飢えた狼のカルシュタインが、こちらの隙を伺っている、か」


レーマンが呻くようにこぼした。


「その飢えた狼ですか、一撃するための棍棒を用意している最中です。来月には一撃、いや二撃程度は出来る筈です」


フォン・ヴァイゼンが言った。


金床へ飢えた狼の頭を据えて、『鉄槌アイゼンハンマー』を叩きつけてやる。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る